BSD物語CH57:1杯の……
1月下旬、The Internet を震撼させる事件が起こった。
感染力が非常に強い新型コンピュータウィルスが登場したのだ。従来のコンピュータウィルスと異なり自らのファイル名やタスク名を短い期間で次々と変えていくそのウィルスにノー○ンや○マンテックも対応に手こずりウィルス定義を発表をした物の派生型を完全駆逐するには今しばらくの時間が掛かると見られていた。
その余波は2月中旬にもなって続いており……
そう、未だに屋敷のサーバ群は対ウィルスでてんてこ舞いの状態だった。
「ティナさん、PID:59332に不審な動きが見られます。これも例のウィスルですわ〜」
「レイナ、それkillしてください、間違い有りません。ウィルスタスクですっ!」#kill 95332
ps 95532
……
…………
「ティナさん、確かに殺しました〜」
「これで今日一日で684回目です。もう大概にして欲しいです!」
「今しばらくの辛抱ですわ〜」
そんな状態が長く続いていた為、普段彼女たちが作ってくれる夕食でさえ近くのスーパーで売られている出来合の総菜やコンビニなどの弁当で済ませる日々が続いていた
「ふぅっ」
「ご主人様、お疲れさまです。そのメールが本日分の報告書ですか?」
「そう、政府の対策機関に提出する感染状況報告書……今月に入っても毎日出しているからいい加減飽きてくるよ。全く」
「申し訳有りません。私がしっかりしていれば……」
「ティナの所為じゃないよ。大手専門メーカーの専門家でさえ対応に苦慮しているんだ。やむをえないさ」と、そこで初めて彼女が差し入れに持ってきた飲み物が普段のミルクティーと違うことに気が付いた。夜遅くに彼女が持ってくるのは、何時もやや甘めのミルクティーなのだが今日に限ってはココアだった。
「珍しいね。ティナがココア入れるだなんて」
「ご主人様、ココアはお嫌いでした?」
「いや、結構好きだよ。時々はレイナに入れてもらっていたから。でも又、今日に限ってどうしてティナがココアを?」「ご主人様、本当だったらきちんとチョコレートをお渡ししたかったのですが、あまりに忙しすぎて用意する時間がありませんでした。このココアはせめてものお詫びです。」
そこでカレンダーを見てようやく気が付いた。今日はバレンタインデーだったのだ。
「あ、そうか……」
「事態が落ち着きましたら改めてチョコレートをお送りします。本日はこのココアを全員からのチョコレートだと思ってください」
「楽しみにしているよ」管理人は彼女たちからの一杯のココアを受け取ると有り難くそれを飲み、報告書作成とウィルス対策に改めて取りかかるのだった。
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あとがき代わりの駄文その57
メイル:「ティナお姉ちゃん。暫く添付ファイル付きメール全面ストップしていい?」
ティナ:「そうできたらどれだけ楽か……そうも行かないでしょ?」
メイル:「う……でも、事態が事態だからしょうがないんじゃない?」
ティナ:「本当は私だってそうしたいんです。でも私だって我慢して
いるんですメイルもその辺り分かってくれますよね?」メイル:「でもでもぉ」
ティナ:「わ か っ て く れ ま す よ ね」(ちりちりちり)
そのやりとりを見つつ、ウィルス制作者の運命を思わずにいられない管理人だった。