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BSD物語

星に願いを託す七夕
電脳世界に生きる彼女達も時には星に願いをかけたくなるときがあるらしい
屋敷の庭には短冊がつるされた大きな笹が立てられていた
 

CH52:星に願いを
 

朝食を取るべく1階に下りてきた管理人
食堂に入って目に飛びこんできたのは中庭にそびえ立つ青々とした見事な笹だった。そういえば、今日は七夕だっけ

金銀砂子〜と鼻歌を歌いながら短冊をフル爆装の爆撃機宜しく吊り下げて飛んでいくメイルを捕まえて何が起こっているのか確認する。

「今更愚問のような気がするがあの笹は一体何なんだ?」
「決まっているじゃない。七夕の飾り付けに使うんだよ」
「で、一体どっからもらってきたんだ?」
「え〜っとね、近くのお屋敷からとってきたんだよっ♪」

頭を抱える管理人にメイルがあっけらかんと答えてくれる

「おいおい、それじゃ泥棒じゃないか」
「いえ、『七夕に使うから』と理由を話したらそこの主人が快く分けてくださいました。なんでも近年はどこも小さい笹を使うので私達が貰ってきたような大きな笹はどうしても余ってしまうそうです」

ティナの話を聞いて思い当たることがあった。マンションではベランダに笹を置くほかは無く、自然とそこに於ける小さなサイズの笹が人気となる。一軒家でも庭はそう大きくないのでやはり同じようなサイズがそこら中で見受けられるようになる。結果、昔ほどの大きな笹はめったに見られなくなったのだろう。七夕のたびに近隣に快く笹を分けてくれた近くの老夫婦も「さびしくなったもんだ」と数日前にぼやいていたのを思い出した。

レイナが物置からアルミ製脚立を取り出して、庭にすえつけた笹に短冊をつけ始めた。メイルは自分の身長の半分にもなる短冊を抱え揚げては自分で飛んでいって笹の葉にくくりつけていた。身長が低い美宇は笹の下のほうにしか手が届かないので、脚立の上に座っているレイナに抱え揚げてもらって短冊をつけていた。ティナはその脚立をしっかり支える役目だ。

ちょっとみせてもらうよ とみんなに断って短冊に掛かれた文章を見せてもらう。

「クラッカー共と腐れ外道のΜ$に死の制裁を!!」
「我らの屋敷に平和と安寧を」
「ウィルス撲滅」

あ〜誰が書いたかいうまでもないな(汗)
さてこちらは・・・・・・?

「DBの最適化が何時も正常に終わりますように」
「電源が落ちませんように」
「ユーザーのリクエストに遅延無く答えられますように」

これはレイナだな。まぁ普通と言えば普通か

「HDDが壊れることの無いように」
「CPUが熱暴走しないように」
「ついでにティナとメイルがもうちょっと落ち着くように」

これはミレイが書いた分らしい。彼女がいかにも書きそうだ
これを読んだティナの反応が容易に思い浮かべられる。
切れたティナがミレイに突っかかり、何時も冷静なミレイのきつい一言で
ぐうの音も出なくなったところでサッとレイナに戻ったと言うところだろう

多分この辺が美宇が書いたぶんかな? そうおもって短冊を読もうとしたのだがあまりの達筆で全く読めなかった。どうやら江戸時代ごろの流暢な文字で書いていたらしい。そういえばリビングに硯と筆が置いてあったな・・・・・・
 

ふと、空を振り仰ぐと曇天が更に影を濃くしていた。

「こりゃあ一雨来るかもなぁ・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

葛餅と熱いお茶でおやつにして程なく、空からポツポツと雨が降って来た。始めは、ぱらつく程度だった雨は勢いを増し、やがて雨具なしには外へでられないほどになった

「たいへんですたいへんです〜」

両手いっぱいの洗濯物を抱えてレイナが忙しそうに走る。午前中はまだ青空がのぞいていたのだが降り出した雨に洗濯物がびしょ濡れにならないように急いで取り込んでいるのだ。>数分後、風呂場と脱衣所は半乾きの洗濯物がハンガーごとつるされ、除湿機がフル稼働していた。

「あ〜ぁ、折角の七夕なのに・・・・・・」

ソファに寝転んでメイルがぼやく。
「まぁしょうがないよ。このシーズンだし」
「でもぉ〜なんでこんな日に限って雨が降るのさ」
「あれ? 気がついていなかったの? 今日は元々雨が降りやすい日だって」

「え〜〜〜〜〜!!」

私の何気ない一言に彼女達が全員声をあげる
「レイナ、試しに記録にある限りの今日の天気をまとめてごらん」
「わかりました〜 気象庁のデータベースに接続しますぅ〜」

ほどなく、彼女は統計データをウィンドに表示した

「確かに今日はかなりの年で雨が降っていますね〜」
「じゃあ、なんで昔の人はこんな日に七夕をしたの? 晴れていないと二人は会えないんでしょ?」

「メイル、仮に僕と君がデートをしていて、誰かに覗かれたいと思うか?」
「う〜ん、確かに嫌だけど」
「彼女達もきっと覗かれるのが嫌だから雨を降らせているんじゃないのかな? どうせ星なんだし地球で雨が降っても関係ないだろ?」

「あ! そっかぁ〜」

なにやらソファの上で考えにふけるメイル、ひょっとしてデートの様子でも妄想しているのか?

「ところで、どうしてメイルとはデートして私とはデートしていただけないのです?」
「あらあら私もデートしたいですわ〜」
「さて、何時デートしてくれるんですか?」
「返答如何では明日の朝日は拝めませんよ〜」

にこにこと笑いながら詰め寄るふたり、ティナは妖刀パケットリストを顕わしているしレイナはにくきうグローブ装備済みだし……何時の間にかしっかり武装しているじゃないか!

「お〜た〜す〜け〜」
「まちなさ〜い!」
 
 
 
 

喧騒を側に美宇は短冊を手に取ると流れるように一気に書き上げた

星 在 宙 顕 恋 (星は宇宙(そら)にありて恋を顕わし)

雲 在 空 隠 天 (雲は空にありて天を隠す)

人 々 笹 託 願 (人々は笹に願いを託し)

空 仰 恨 雨 雲 (空を仰いでは雨雲を恨む)

「ふむ・・・・・・今ひとつだな」

美宇は静かに筆を置くと、未だ続いている騒ぎで家具が痛まないように結界を張るのだった。
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その52
 

管理人:「気象学では「特異日」と言う概念があって、有る特定の日は晴れやすいとか雨が降りやすいと言う統計があるそうです七夕は特異日ではありませんが元々梅雨のシーズンですから雨が降ってもおかしくはないでしょう」

ティナ:「1/15もそうですね。毎年のようにセンター試験が大雪で遅れるというニュースが有りましたから」

管理人:「それなんだけど……」

ティナ:「?」

管理人:「近年はセンター試験の日自体を変更しているから必ずしも試験当日に雪が降るって確率が減っているんだよ。良いことなんだろけどね」

ティナ:「すべ××いだけいいのでは?」
 
 
 

管理人:「駄文内で不適当な表現がありました。謹んでお詫びいたします」

ティナ:「なにもSu権限つかってまでぐーでなぐらなくてもいいじゃないですかぁ・・・・・・」