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BSD物語

「さてと・・・・・・今年で3年目かぁ」
ティナが屋敷に来てから早3年と少し。バレンタインも同じ回数だけ迎え、ホワイトデーのお返しに同じ回数だけ返礼をしてきた。そのたびに迷うのだ。今年は一体何を返そうかと。

CH:50 返礼

2/14に行われているバレンタインの大騒ぎ、本来はチョコレートの交換などではなく聖バレンタインをしのぶ日であったという。それが現在の形になったのは日本の産業界に巣食いバックから日本制圧を虎視眈々と狙う「全日本お菓子連合」の陰謀である。よってレジスタンスとしてはこの陰謀に乗らぬように2/14も3/14も無視する・・・・・・というわけにも行かず、ほとほと何を返したものか困っていた。

「基本は貰ってうれしいものだし・・・・・・」

美宇には・・・・・・屋敷に来て日が浅く、好みがはっきり判ったわけではない、美宇の口数が少ないので好みを話すことも少なかった。ただ、日常の振る舞いに日本的なものが多いので好みも日本風と判断。上喜撰をプレゼントすることにする。この上喜撰、宇治茶の中でもトップクラスの銘柄でかなりきつい。4杯も飲めば有名な狂歌のように「夜も眠れず」となる代物だ。

メイルには・・・・・・この前の一件もあることから各種蜂蜜を少量ずつ詰め合わせたものを用意。サイズがサイズだけに管理人サイズだと1回使って終わる分量しかないが、メイルなら色々使ってもしばらくは持つだろう。

レイナには・・・・・・メイルに関連して紅茶の詰め合わせ。クイーンマリーやレディグレイなどの詰め合わせを用意。これが以外と高かった。まぁ、それほど安物は入れなかったからしょうがないといえばしょうがない

ティナには・・・・・・これが一番問題だった。ティナのことだ、何をプレゼントしても喜んでくれるのは確かだろう。では、プレゼントに最もふさわしいものは?
ふと、紅茶店の店頭にジャムのコーナーが有るのに気が付いた。ロシンアンティー用、また、ティータイムのスコーン用に色々そろえられたコーナーにはその辺のスーパーではなかなか手に入らないちょっと変わったジャムやマーマレードもあった。よし、これにしよう!

両手を一杯にしつつ、その界隈を離れる。おっと、もう一軒寄らなきゃいけないんだった。
華やかな表通りから裏通りに入り歩くこと少し、看板もでていない商店に入り……管理人がその店から出たのは30分後のことだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ただいま〜」
「「「「おかえりなさい」」」」

やはり期待していたのか、一同が玄関までで迎えに来ていた。

「ねぇねぇ、何買ってきたの?」

管理人の両手に抱えられた山盛りの紙袋を見てメイルが期待を込めて尋ねる。でも、ココでばらすのももったいない。

「後で教えてあげるからちょっと待ってね……レイナ、全員分のお茶を用意してくれ。ティータイムにしよう」
「わかりましたわ〜 焼きたてのスコーンもありますので一緒にお持ちします〜」

スコーンとはちょうど良い。管理人は先に食堂へ入り、それぞれの席の前に一つずつ紙袋を置いた。

程なく、全員が食堂へ集まった。芳醇な紅茶の香りと焼けたスコーンの香ばしいにおいの中、ティータイムを始めた。ティータイムと言っても用意されているスコーンなどの量は結構な物だ。3時のおやつと思っているとかなりの分量があるので注意が必要だ。

全員に紅茶が行き渡ったところで、「開けてごらん」とプレゼントを渡す。本当は手渡しが良いのだが、そんなことをしたら順番争いでまた一悶おきかねない。せっかくのティータイムを凄惨な戦場にするつもりは更々ないのである。

「わあっ♪」

三者三様……いや、4者4様の歓声が上がる。どうやら気に入ってくれたようだ。

「ねぇねぇ、早速使っても良い?」
「もちろん。後でどんな味だったか教えてね。あと、一辺に食べ過ぎないように注意してね」
蜂蜜は結構刺激が強い。場合によってはアレルギーがでることもある。ついこの前も椎茸の食べ過ぎでメイルがアレルギーを起こしたばかりだ。もっとも、ティナに言わせれば「単なる食べ過ぎです」と、あっさり断言された。まぁ、普通の人間サイズのチンジャーロースー2皿も喰えば当然か……

「今度、これでお入れします〜」
紅茶のセットを前に嬉しそうなレイナ、レイナオリジナルのブレンドティーを今度作ってくれるそうだ。一体どんなフレーバーになるのか? 楽しみに待つことにしよう

「……ありがとう」
ぼそっと、まるでそれほどありがたがっていないかのように美宇が礼を言う。しかし、椅子から後ろに出ているしっぽの動きを見ていると明らかに喜んでいるのが分かる。どうしてそんなことが分かるのかって? 管理人も伊達に数年彼女たちとつきあっているわけではない。ネコミミメイドというのは感情がしっぽに結構出ている物なのだ。

「ご主人様……これは? あまり見かけないメーカーですが」
いくつもの瓶を前にティナが怪訝そうな顔をする。
「それはディップトリーっていうイギリスのメーカーなんだ。王室御用達のハイクラスなんだぞ。オレンジマーマレードってだけで色々種類があったから買ってみたんだ。ティナの焼くスコーンにあうかなって」
「ありがとうございます! では早速使ってみます?」
「そうだね、どんな味か興味があるところだし……」

いくつも並べられたオレンジマーマレードから一つ選んで開封する。わずかに緑がかったものや紅に近いマーマレードのなかから特に深いオレンジの瓶を選ぶ

「いただきま〜す!」
「深い味が何とも言えませんわ〜」
「霙印の物とはあじがぜんぜん違うねっ」
「……お代わり」
「はい、どうぞ♪」

みんなのにぎやかな会話を楽しみつつ、管理人は少しずつミルクティーを楽しんでいた。管理人はネコ舌なので焼きたてスコーンを食べられないのだ。焼いてくれたティナには申し訳ないのだが。しばらくさましてから何時も頂いているのだ。

しばらくして、どうにか食べられる程度の暖かさまで温度が下がったスコーンにオレンジマーマレードを付けて一口……ん? なんだ!? 妙な香りが口の中に広がる。決して不快な香りではないのだが……どこか覚えのある香りの原料を確認するべく、瓶を手に取りラベルを確認する
 

原材料:オレンジ・砂糖・モルトウィスキー
 
 
 

モルトウィスキーだって!?
 

嫌な予感がして、一同の様子を確認する……
が、既に遅かったようだ。すでに食堂は凄惨な光景に変わり果てていた。

「ご〜しゅじんさ〜ま〜 たべていましゅか〜 ってこんなにこのしているじゃないでしゅかぁ〜 ほらもっと食べりゅ〜」

いつぞや花見のようにティナは妙にハイになっていた。すでに呂律も怪しい(汗) 絡んでくるティナを何とかふりほどくと、今度は虚空にむかってしゃべりだした。その様子はひたすらアブナイ。まさに電波系といたところか。

「くか〜 くか〜 お腹一杯です〜」

レイナは……すでに酩酊モードらしい。
まぁ暴れられたら困るし、むしろこのままにしておく方がいいだろう。

「どうせボクなんてセキュリティホールだらけだし、何時もミスばかりだし、バグだらけだし……ボクなんて、ボクなんて……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

メイルは……なにやら泣きモードに突入していた。とりあえず害は無いと思うからこっちも放置っと

「私の出番が少ないぞ! 出番増やせ!」
「はい!?」

いきなり美宇に胸ぐらを捕まれた! え〜っと!?(汗)

「労働者は作者に出番あっぷを要求する〜っ! シュプレヒコール!! でばんふやせ〜!!!」

美宇、そっちは壁だ。壁はシュプレヒコールしないと思うぞ? とりあえず、全員の機能を最低入出力だけ残し全てオフ、稼働レベルを最低にする。これで、惨状はくいめられるはずだ。

管理人はモルトウィスキーのオレンジマーマレードを封印すると、食堂の後片づけに入ったのだった。
 
 
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その50
 

「なんだ? この紙包みは」

深夜2時、屋敷周辺の見回りを終えて自室に戻ってきたミレイの机の上には見慣れない茶色の小包があった。何の飾りけも無い、その紙袋にミレイはどこか見覚えがあった。ナイフで封を破り中身を取り出すと……銃の整備用の油と磨くための布、愛用の銃、Five-seveNの弾と同じ形状に成形された銀塊 そしてカードが一枚。

折り畳まれたカードを開くとそこには一行だけ書かれていた。

『バレンタインのプレゼントありがとう by 管理人』

「拳銃型のチョコレートのお返しがこれか……無理をした物だ」

ミレイは苦笑しつつ、もらった銀の塊で早速弾丸を作り始めたのだった。