トップに戻る
1話戻る
BSD物語

2月中旬
某業界の陰謀により屋敷は内政不安になりつつあった。
 
 

CH48:共同戦線
 
 
 

「今まで見たいな騒動起こしたら何も受け取らないからな! 何か作るんだったら共同で作ること!!」

少々きつい言い方だが、騒動を回避する為に苦肉の策として宣告したのがバレンタインの一週間前、これが効いたのか殺気に包まれることも無く平穏な雰囲気の中、管理人は2/14を迎えようとしていた。

しかし、レイナが書庫から軍事名鑑を取り出してきたり、ティナがしょっちゅう軍事サイトにアクセスしているのをみかけて果たして本当に平穏なのか少々不安になったきた。

彼女達に気が付かれない様、抜き足、差し足、忍び足でこっそりとキッチンへと侵入を試みる。そこではティナがウィンドゥボールを展開する横でレイナがチョコレートをテンパリング(湯煎でチョコレートを溶かす)というなんとも奇妙な光景が広がっていた。

テンパリング自体はチョコレートの整形に必須な事項だ。時々漫画でチョコレートを鍋にいれ直火で溶かしているイラストがあるが、本当はやってはいけない行為である。焦げ付く恐れがあるどころかチョコレートを構成する不飽和脂肪酸の形が高温で変形がしてしまう為、冷やし固めたときに外見にむらができたり、味がばらついたり、型から外れなくなったりする。レイナのやっているように千切りにしたチョコレートを湯煎にかけ、温度を正確にコントロールしつつ溶かして使うのが正しい使い方である。(テンパリングはチョコレートの出来を左右する最も重要な項目です)

そういう意味ではレイナのやっている行為は至極まともだ。ただ、その横でティナがウィンドゥボールを展開する理由が全く分からない。それこそ作り方の手順なぞ彼女達の記憶容量からすれば塵も同然、わざわざメモを作るまでも無いことだろう。なのにウィンドゥボールを展開してまで一体何をやっているのか? そこまでの処理能力をチョコレートでのお菓子つくりに必要になるとは思えず・・・・・・ウィンドの放熱をテンパリングに利用している? だったらわざわざ湯煎をする必要が無いはずだ。とりあえず気配を察知されないうちに一時撤収した。
 
 

彼女達のなんとも怪しいチョコレート造りを見かけてら数日後、運命の日を迎えた
運命の日というのはおかしいか。審判の日というべきか

何かおかしいが妙に合う

まずは

メイルと美宇からのプレゼントだ

正方形の柔らかな和紙、それの頂点を合わせてねじってある。大きさは両手を合わせてちょうどすっぽり入るくらいか。ねじりを元に戻すと中にはミニサイズ六方焼がいくつも入っていた。

「手をあまり汚さずにいつでも食べられるようにって美宇が考えてたの」
メイルの説明に恥ずかしそうにうつむく美宇、ううむ。是はきちんとお礼しないとなぁ・・・・・・

それはともかく、本日の最大の難関。それは私の目の前には縦横30cm、高さ20cmほどのリボンでラッピングされたプレゼントとして鎮座ましましていた。

「さぁ あけてください」
ティナとレイナの期待に満ちた瞳に囲まれながら戦々恐々としつつ私はその箱を開けた。爆弾処理の人間はこのようなおももちで配線を扱うのだろうかと思いつつ慎重にリボンを解き、紙の蓋を上へ持ち上げるとその中にはチョコレートケーキが・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

在ったわけではなく、精巧な戦車の模型が丁寧に収められていた。

箱の中から漂ってくる芳香はその戦車の素材がチョコレート製であることを現していた。

「第二次世界大戦前にイギリス陸軍が開発したヴァレンタイン戦車のチョコレートレプリカです」

胸を張ってティナが教えてくれる。どうやらキッチンで展開していたウィンドボールは精巧なミニチュアを造る為の物だったらしい。もし、アクリルのケースに入れられて飾ってあったならば到底チョコレート製だとは思えなかっただろう。

「さぁ、お食べになってください〜」

これを食べろと?

ここまで精巧なのに??

とはいえ、造ってくれたのを無下に断るのも失礼な話

管理人はそのバレンタイン(戦車)チョコレートを箱から取り出すと砲塔から噛り付いた。
 
 
 
 

がりっ
 
 
 

思わずその異常に硬い歯ごたえと金属の味に顔をしかめる。なんだこりゃ?

さっと美宇が差し出した和紙の上にそれを吐き出す・・・・・・種? いや違う。
ミニサイズの砲弾だ。最もミニチュアサイズの戦車の砲弾だから拳銃の弾サイズだが・・・・・・

「ティナ、なんでこんなものがはいっているんだ?」
「当然リアルにする為につくったのですが・・・・・・」

思わず頭の中を「bite the bullet」というフレーズが走った。あまり彼女達にがみがみ言うのは性に合わないんだが・・・・・・覚悟を決めるか。きっちりけじめをつけなきゃいけないところはつけなきゃいけないし。

「ティナ、レイナ。いくらなんでもこれは無いんじゃないか?」
「せっかくリアルにしようと思って造りましたのに」
「確かに、精巧だよ。できるならそのまま飾っておいておきたいぐらいだ。でも食べ物の中に金属を仕込むなんていくらなんでもやりすぎだろ? 誰が食べると思っているんだ!?」

そういわれてシュンと落ち込む彼女たち。立ち去り際に管理人は一言、彼女達に声をかけた

「罰として、きちんと食べられる戦車をもう1回作ってくること。いいね?」

その一言で彼女たちの表情は再び笑顔に戻った。
 
 

数日後
 
 

管理人の机の上にはチョコ菓子の包みがあった
それは彼女達からのプレゼント 
ミニサイズ(1.5cm)バレンタイン戦車一個大隊だった。
 
 

   ( 続く )

−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−

あとがき代わりの駄文その48

管理人:「ヴァレンタイン戦車というのは実在します」

ティナ:「『歩兵戦車Mk.IIIバレンタイン』というのが正式名称らしいです。もっとも英語ですが」

管理人:「あと、弾丸を噛むというのは英語に本当にある言い回しです。まぁ、本当に弾丸を
      噛む羽目になったのですが」

ティナ&レイナ:「ごめんなさい〜」