トップに戻る
1話戻る
BSD物語
クリスマスの大騒ぎも終わり、
年末恒例のメール大量送受信も終わった。
七草粥も食べ終わりほっと一息ついた頃、初詣に行こうとメイルが言い出した。
 
 

CH47:初詣
 
 
 

「ねぇ初詣行こうよ〜」

 いつもの通りPCに向かって掲示板のチェックをして居た管理人の頭の上で、初詣に行こうとメイルが飛び跳ねる。それほど重いわけじゃないのだが……
メイル、髪がぐしゃぐしゃになるからやめてほしいんだけど?

見かねたティナがひょいっとメイルをつまみ上げ、文字通り雷を落とす。

「なにやっているんですかっ!」
「でもぉ〜年賀e-mailは一段落付いたし、今ならちょっとぐらい屋敷を明けても問題ないでしょ?」
「それはそうですが……」

ティナが屋敷に来てすぐの頃は、そう忙しくなかったので初詣にも気軽に行けたのだが……今では結構利用者も増え、それなりの管理体制もひかれるようになった。「常に誰かがサーバの側に張り付いていなければならない」と言うことはないのだが、何かあったら即応できるようにはしておきたかった。

「では、初詣に行っている間もサーバ監視ができればよいのですね?」
鏡とブラシをトレイに乗せ持って来たレイナが話題に参加してきた。さっき、髪をぐしゃぐしゃにされたのを見て持ってきてくれたのだろう。礼を言って鏡とブラシを受け取り、髪型を元通りにする。

「リモートアクセス出来るようにノートPCを持っていけばいいのではありませんか」

その発言に思わず手を打つ。確かにノートPC+ミニティナ達の編成なら屋敷から離れていても大抵のトラブルは解決できる。 ハードウェアで何かあっても彼女たちがノートPCから回線経由で屋敷に戻って対応できる。問題点が解決できると言うことで初詣に行く準備があわただしく始められた。管理人は自室に戻ってノートPCの準備をする。リモートでサーバに接続できることを確認した上でノートPCを鞄に放り込む。バッテリーは満タン、万が一に備えて予備のバッテリーも合わせて用意する。最後に簡単に身支度を整え、鏡で確認する。見苦しくはないはずだ。

玄関へ向かうとティナ達の準備もできていたようだ。ティナとレイナは普段のメイド服から外出用の普通の冬服に着替え、それぞれ黒と茶色のコートを着ていた。二人とも大きめのベレー帽を被っている。流石にネコミミは人混みで目立つからという配慮らしい。美宇はいつものとおり和服にどこから用意してきたのか足袋に下駄という純和風スタイル。目立たない?と聞いてみたら「大丈夫」との返事。なんと手のひらサイズまで小さくなって管理人の携帯に液晶画面からもぐりこんでしまった。あとは、本殿前で出して欲しいとのこと。あの人ごみの中ならそうそう気が付かれる事も無いだろう。メイルがどうするか一もめ合ったが、管理人のバッグパックのポケット(特大サイズ)に入っていることで決着が付いた。

「あれ?車使わないの?」
「たまには電車も良いだろ? それに下手に車で移動すると渋滞で身動きできなくなるぞ?」

これから向かう先の神社は日本各地にある分社の総元締めなので、このシーズンごった返している。交通規制もひかれ、神社近くへは住民以外は車で入ることさえ出来ないのだ。実は……管理人は電車や汽車の方が好きという理由もあったりする。 家から近くの駅まで車で10分、そこから電車で30分、終点の大きな駅で乗り換え更に10分。電車の中は目的地が近づくにつれ、どんどん混みだし、目的の駅に着いたときには朝の通勤ラッシュもかくやという状態だった。

目指す神社は駅を降りてすぐ目の前、道路を挟んですぐ向かいから始まる神社への階段は遠くの本殿まで続く、いくつもの鳥居が並ぶ。そしてずっと向こうまで人でいっぱいだった。
 

「凄い人混みですわね……」
「お寺や神社の多いこの町でも有数の大きさだし、毎年夏に行われるお祭りは世界中から人が集まるからなぁ。ピークを過ぎてもまだこれだけ人がくるか・・・・・・」
「夏のお祭りってあの山車が出る祭りですか!?」

ティナが驚くのも無理は無い。その祭りは3日で100万もの人が見に来るといわれるほど盛大な祭りなのだ。

「もっと手近な神社でもよかったのではないでしょうか〜?」
「いや、ここは病魔退散のご利益もあるからぜひ訪れたかったんだ」

管理人の発言に思い当たる節があるのかティナもレイナもどこか引きつった表情をした。何時だったか個々の神社がバグ退散のお守りを造ったらあっという間に売り切れたらしい。先の盛大な祭りも疫病を払うのが本来の目的だったし。ご利益も保証付き? ということらしい。
 
 

万が一はぐれた場合は管理人へメールで連絡すること、落ち合う場所はこの駅とすることをうち合わせ、人ゴミの中に埋もれていった。ちょっとでも目を離すとバラバラになりそうなのでティナ達とそれぞれ手をつないでいくことにした。

警備員が声を張り上げ押さないように注意を呼びかける中、ゆっくりと流れは本殿へと流れていった。本殿近くで石灯篭の裏に隠れ、どうにか美宇を外に出す。それぞれ、財布からお賽銭を取り出すとそれを投げ入れ参拝。美宇に再び携帯へはいってもらい、社務所で破魔矢を買い求めて昨年分を預けてから駅に向かった。あまりの人混みで気温は熱いぐらい。少々のぼせ気味だ。

駅へまっすぐ向かおうと思ったが帰りも凄い人混みのためちょっと遠回りすることにした。参拝客を見込んだ出店で参道はにぎわっていた。

「おなかすいたぁ〜」
「だめです!お屋敷に帰ってからごはんです」
「でもぉ、おいしそうなにおいがするよ?」
「しょうがない、その辺の出店でたこ焼きでもかって帰ろう。出ないとメイルがポケットから飛び出しかねない」
「しょうがないですね……あら?レイナは??」
「おまたせしました〜」

あわててこちらに合流するレイナ、その両手には大量のぬいぐるみや玩具が抱えられていた。

「一体どうしたんですか!?」
「その〜、あそこの出店前を通ったときに突然気を失いまして、気が付いたらこんなに一杯屋台のおじさまから受け取っていたんです〜」
「あそこの出店って……」
「あぁ、射的屋だ、きっとミレイがやりたかったんだろうなぁ」

そこの射的屋の目玉商品コーナーはそろって誰かにとられた後だった。ミレイが全部取っていったのは想像に難くない。いくらねらいが甘い空気鉄砲でも、使ったのがミレイでは……頭の中を「何とか筆を選ばす」なんて言い回しが通っていった。

周囲は女性ながら景品をごっそり持っていったレイナに注目していた。これ以上人目を引くのも何だったので。そこらのたこ焼き屋で四人前を買ってそうそうに屋敷の戻ることにしたのだった。
 

   ( 続く )

−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−

あとがき代わりの駄文その47

管理人:「むむむむむ」

ティナ:「ご主人様、たこ焼きを睨んでどうなされたのですか?」

管理人:「こんなたこ焼きみとめん! たこ焼きは濃厚なソースに鰹節と相場が決まっておろう!」

ティナ:「これ買ったのご主人様ですよ」

管理人:「そうなんだよなぁ(涙)」

レイナ:「でもおいしいから良いではありませんか?」

管理人:「確かに、出店のジャンクフードとしては上等だけど……よし、今度おいしい本場の
      たこ焼き買ってこよう!」

レイナ:「楽しみですわ〜」