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BSD物語

クリスマスのシーズンは誰だって陽気になる
米国出身のティナや北欧出身のレイナもやはりクリスマスは待ち焦がれているわけで……
 
 

CH46:クリスマス戦線
 
 

「じんぐるべ〜る じんぐるべ〜る すっずっが〜なる〜」

 クリスマスが近づくにつれてメイルはずっとこの調子だ。ティナが時々注意する物のその注意する本人がクリスマスを迎えて浮かれているんじゃ説得力もない。レイナはレイナでクリスマス料理の準備に余念がない。まぁ欧米では一年の中でもっとも華やかなお祭りシーズン、そこの出身である彼女達だからしょうがないと言えばしょうがないか。

 セキュリティ担当にメール担当にDB担当がこの調子では業務に差し障りが出る。そのしわ寄せはきっちり管理人の所へ回ってきた。おかげでここ数日まともに寝ていない。もっとも、このシーズンは特に忙しいというのもあるのだが。

 各ウェブサイトはクリスマス更新をかけてくるので、それを見に来たユーザの要求でアパッチサーバヘの要求は通常の数倍に膨れ上がる。e-mailはそれに輪をかけて飛び交い……トラフィックも当然増大。クリスマス限定ウィルスはメールにくっついてファイアウォールは各種アラームがなりっぱなし。文字通り目の回るような忙しさだった。

クリスマスイブの前日
管理人が睡眠不足と過労でぶっ倒れる寸前、ようやく事態にティナ達が気が付いてくれた
 
 

「申し訳有りませんっ! ネット管理者のとしての本分を忘れておりましたっ!」

クリスマスのアクセスピークを彼女たちに任せ、数日ぶりに管理人は休養をとった。泥のように眠り続け、起き出したのは26日のことだった。
 
 

外から差し込む朝日がいつもよりまぶしい。窓のカーテンを開けると、一面の銀世界だった。
聞いた話、24日の夜になってから降り出した雨が雪に変わり、断続的に降った雪の為、外は結構な雪が積もっていた

「おはようございます〜」

未だ最高レベル警戒をしいていたティナに変わってレイナがやってきた。時間は10時、トレイにはほかほかと暖められた蒸しタオルが乗せられていた。数日の修羅場でお風呂どころか顔も満足に洗えなかった管理人にとって、それの使い心地は生き返るようだった。

「こちらも一段落付きました」

シャワーを浴び服を着替えてダイニングへ行くと、こちらも疲れた様子のティナがやってきた。クリスマス限定ウィルスやお祭り騒ぎに乗じたクラッカー達の相手は流石に堪えたらしい。ティナ自身もお祭り騒ぎで浮かれていたため余り彼らのことを非難できないが、それでもやるべき事をやってきたのは大した物だと思う

「さぁ、一日遅れちゃいましたけどクリスマスパーティにしませんか?」

ダイニングテーブルにはクリスマス料理がちょうど食べられる状態で並べられていた。過労で倒れた私、システムトラブルが起きないように一晩中働きづめだったティナ達。どちらも25日にパーティが出来るわけがなかった。仮に私の体調が万全でも25日はやはりシステム保全のために一晩中詰めていただろう。

それを見越して準備していてくれていたレイナ、きっとみんなでクリスマスパーティーを本当は25日にしたかっただろう。なのに彼女たちは、倒れて仕事を任せてしまった私に愚痴一つこぼすことなく仕事をしてくれたのだ。

「みんな……肝心なときに仕事を押しつけるような真似をして悪かった」

テーブルを囲んで集まったみんなに頭を下げる。
そんな管理人に声をかけたのはティナだった。

「私は怒っています。仕事を押しつけられたからじゃないですよ。なんで自分で仕事を抱え込んで私達に頼まなかったんです? 信頼しているからこそ言うべき事も有るんじゃありませんか?」

ティナの言うとおりだった。が、それ以上に嬉しくもあった。私をシステムの管理人とだけ見ているのではなく対等のパートナーとして見てくれたことが何より嬉しかった。
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その46

管理人:「ひぃふぅみぃよ……あれ? 一皿多い??」

レイナ:「美宇さんの分ですわ〜 後で客間にお持ちします〜」

正直なところ、レイナに指摘されるまですっかり存在を忘れていた管理人であった。
管理人の128MBスマートメディアが一枚破損して、使用不能になるという事故が起こったのはその直後のこと。不幸中の幸いはデータのバックアップがあったことだった。
 
 

美宇:「はぐはぐ(この鳥のフライおいしい……管理人の運気を一つ下げておこう)」