*空から降りてきた白い星*
(キリリク56789)


【3】

黎深と百合に手を引かれ、絳攸は庭院を歩いていた。
紅家の庭院は広大すぎて必ず迷子になるので、絳攸はこんなに遅い時刻はおろか、昼間でさえ特別な用がなければ足を向けることはない。
「百合さん、いったいどこに行くんですか?」
「ん〜? ふふ、もうすぐ分かるわ」
楽しそうに笑う養い親たちをみて、絳攸は首を傾げた。こんな時間に、こんな寒い中、どうしてわざわざ庭院散策なのだろう。さきほどからチラチラと雪までぱらついてきている。養い親たちの衣を見る限りでは、どこかへお出かけというわけでもなさそうだ。
庭院でいったい何があるのだろう。
絳攸がそう思いつつ歩いていたとき、ふいに黎深が立ち止まった。
「百合、そろそろだ」
「そうね」
黎深が持っていた提燈を百合に手渡す。と、急に絳攸の視界が閉ざされた。布のようなものに瞳を覆われたのだ、と気づいた時には、更に次の衝撃が小さい絳攸を襲う。
「れ、れいしんさま!!!?」
「おとなしくしていろ」
それだけ言うと、黎深はやおら絳攸を抱き上げた。
「わぁっ、黎深様!! お、下ろしてください!!! っていうかどうして目隠しなんか!!」
「おとなしくしていろと言っただろう。落とすぞ」
「でもだって黎深様!!」
突然こんな夜遅くに目隠しをされた挙句、抱き上げられて自由まで奪われてしまっては、どうしても絳攸の頭の中では悪いことばかりが想像されてしまう。
(オモチャみたいにモテアソばれちゃうとか! このままヤインにジョウじて僕を捨てに行くとか!!)
「やだ! やだ!! れーしんさまっ!!!」
「暴れるなと言ってるだろう!! 本当に落ちるっ」
「絳攸、絳攸、大丈夫。ほら、もうすぐ着くから」
落ち着いて、と百合が握ってくれる手も、混乱に陥った絳攸にとってはなんの慰めにもならなかった。
だが、絳攸がどれだけぎゃあぎゃあとわめいても、黎深は抱き下ろしてはくれなかったし、目隠しを取ってもくれなかった。
そうしてどのくらいが経ったのだろう。
幼い絳攸にとっては一刻とも二刻とも思える時間の後、
「ほれ、着いた」
と絳攸が下ろされたのは、柔らかい敷物の上だった。次いで目隠しが外される。
あまりの出来事に訳が分からなくて、絳攸は目の前の光景と養い親たちとを順番に見比べた。
「え、え、え……?」
「汚い顔だな。……仕方のない」
そう言って黎深が苦笑しながら手巾で涙を拭ってくれるのも、その向こうでくすくす笑っている百合の姿も、そのときの絳攸には到底現実だとは思えなかった。

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