*空から降りてきた白い星*
(キリリク56789)


【2】

うとうととまどろんでいた絳攸は、頬にあたる不思議な感触で目を覚ました。誰かが側でしゃべっている。
「こら百合。勝手に絳攸に触るな」
「だってこの子ったら、ほっぺたプニプニなのよ。いーなー。うらやましいなー。若いっていいわよねー」
「ずるいぞ、私だって……!」
わぁわぁと言い争っているような声が近くで聞こえる。
その声に導かれるように絳攸がうっすらと瞳を開くと、そこには2つの顔があった。
「ほらみろ。起きたじゃないか」
「あら、おはようコウv」
「…………ゆりさん……?」
ふにふにと絳攸の頬をつついていたのは、ほかならぬ百合だったのだ。にっこりと笑った百合の顔の向こうに、なんだかムスッとした黎深の顔もある。
その顔に、絳攸のぼんやりとしていた意識が急速に覚醒していく。
黎深と共に昼餉を摂った後に、なんだか妙に眠いと思ったところまでは覚えている。ひょっとしてそのあと自分は寝入ってしまったのだろうか。
枕元には燭台が置かれていて、今がすでに夕刻過ぎであることを示していた。
「百合さん! いつ帰ってきたんですか!?」
「んーと、ついさっきよ。この馬鹿旦那が急に帰ってこいとか抜かしたもんだから、大事な商談きりあげて無理矢理帰ってきたの」
「なんだと百合! 馬鹿旦那というのはまさか私のことじゃないだろうな!?」
「あら、あなた以外に誰がいるのかしら。馬鹿と天才は紙一重、っていうし。それともなぁに、私があなた以外にも"旦那"って呼べる人をつくってもいいの? やったあ公認でウワキ〜」
ばんざいをした百合に、黎深は慌ててその手を掴んで下げさせた。
「誰がそんなことを言った!! おまえの旦那は私だけだろう!!!」
「そうよ、今のところね。だから私の言う"馬鹿旦那"はあなただけよ」
「っ、前に妙な形容詞をつけるな!」
「だって本当のことだし。なにより語呂がいいでしょ、"若旦那"に似て。――ねぇもうその手離してくれない? 痛いのよ、馬鹿力」
「……くっ」
言い負けた黎深は渋々ながら百合の手を解放する。
主人と使用人という関係だった以前は、口げんかをしても九分九厘黎深の圧勝だったが、夫と妻という関係になってからは(黎深は決して認めたくはなかったが)惚れた弱みも加わって、その勝率はだんだんと五分に近づきつつあった。
今回の勝者・百合はほんのりと赤くなった手をさすりながら敗者・黎深に告げる。
「黎深、私に何か言うことがあるんじゃない?」
「…………………………わ、……るかった」
「はい、よくできました」
ふわりと微笑んだ百合は、膝に置かれた黎深の手に自分のそれを重ねると、黎深の頬にそっと口付けた。
「ただいま黎深」
「………………ああ」
瞳を伏せた黎深は、そっと自分の頬を撫でる。
絳攸はそんな仲の良い養い親夫婦をにこにこ笑顔で見上げていた。
それに気付いた百合は、ほんのりと頬を染めながら、慌てて養い子を抱き寄せる。
「あ、コウ。……じゃなかった、絳攸。あなたにもね」
ちゅ、と音を立ててその柔らかな頬に口付けると、百合はいたずらっぽく笑った。
「あのね絳攸、あなたにとっておきのお土産があるのよ」

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