*空から降りてきた白い星*
(キリリク56789)
【4】
黎深が苦笑しながら手巾で涙を拭ってくれるのも、その向こうでくすくす笑っている百合の姿も、そのときの絳攸には到底現実だとは思えなかった。
だって、目の前には今まで絳攸が見たこともないほど巨大な樹が、蝋燭や人形、綿などに飾られて出現したのだから。
絳攸が降ろされたのは壁代わりに大きな玻璃が張られた小屋のようなところで、それはその樹を見るために建てられたものだと思われた。近くには火鉢まで置かれていて、室の中はじんわりと温かかい。
「こ、これ……?」
「おまえに、"さんたくろぅす"からの贈り物だ。百合が預かってきた」
「さ、三太? 僕、そんな人知りません……」
ふるふると首を横に振る絳攸に、黎深はにっこりと笑った。
「知らないはずはない。"さんたくろぅす"は、1年間イイ子にしていた子供に贈り物をしに現れる、とても素敵で優しいお兄さんだ」
「え、えっと…………?」
そんな風に断言されても、絳攸にはとんと心当たりがなかった。
困惑して首を傾げる絳攸には構わず、黎深は上機嫌で告げる。
「綺麗だろう。"くりすますつりぃ"という」
「え、えーと、………………はい、とっても綺麗です……」
自分の言葉に頷いた絳攸を見て、黎深は微笑んだ。
それにつられてついつい百合も微笑む。
この"くりすますつりぃ"は、黎深自身が指示して樹を買い付けさせ、わざわざ仕事を早退してまで家人を指揮し、半日かけて飾り付けさせたのだ。絳攸を睡眠薬で眠らせ、絶対に準備しているところを見られないようにするほどの念の入れようで。
(アノ紅黎深がねぇ。いやー、人って変われるもんだわねぇ)
黎深が見返りもなしに他人にこんなことをするのは、生まれて初めてかもしれない。少し前まで、紅黎深が他人のために何かをする日が来るとは思っていなかった百合は、感慨深くその光景を見守った。
黎深は自分も敷物に腰を下ろすと、絳攸を膝の間に座らせてその小さな身体を抱きこむ。それは、"くりすますつりぃ"が一番良く見える、一番温かい特等席だ。
「見ていろ絳攸」
そう言って黎深が口笛を吹くと、樹のまわりに置いてあった蝋燭の灯が消える。と同時に、樹に色とりどりの何かがぼんやりと浮かび上がった。ちらほら舞い落ちる白い雪が、その微かな光に照らされて儚く淡く融けていく。
その幻想的な光景に、絳攸は声にならない声を上げた。
「わ……ぁ…………!」
「驚いたか、絳攸」
「ど、どうなってるんですか黎深様!!」
「樹を飾った人形に少々特殊な塗料を塗ってある。まだまだ実験段階だが、完成した暁には七彩夜光塗料とでも名付けようかと思っている」
「すごいです! お星様が降りてきたみたいです!!」
「――そうか」
硝子玉のような瞳をまんまるくしてきらきらと自分を見上げてくる子供に、黎深は満足そうに笑う。
と、ふいに視線に気付いたのか、照れくさそうに顔をしかめると百合に振り返った。
「おい百合。何をぼけっと突っ立ってる。酒と肴を持ってこさせろ」
「はいはい、さっき言いつけておいたからもうすぐ来るよ」
「ちゃんと菓子と果実の絞り汁もあるだろうな」
「絳攸用でしょ? ちゃあんと言っておいた」
「ならいい。おまえも座れ」
「……はいはい」
相変わらずワガママで強引なところは変わってないみたいだけど、と思いながらも、百合はおとなしくその隣に腰を下ろした。
(でもまぁ、それまでなくなっちゃったら黎深じゃないか)
本当に綺麗なその"つりぃ"を眺めながら、黎深と絳攸の隣で百合はくすくすと笑った。
END.
【←3】
56789Hitの朱李様からのリク、「若黎深様とチビ絳攸でクリスマス話」でしたー。若黎&チビ絳というよりは、百合さんも交えての「親子でクリスマス話」になってしまいましたが……。朱李様、リクありがとうございました!

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