*夕日色の雫*
(キリリク4000)
【3】
橙色に濡れた自らの手をしばし見つめて、黎深はその手を絳攸の眼前へと差し出した。
「拭け」
「…………は?」
「秀麗には拭いてやったのだろう? 同じようにやってみせろ。――まさか、秀麗にはできて、私にはできない、などと言うのではなかろうな?」
「……………………」
ここで否と答えられる者がいたらお目に掛かりたい、と思いつつ、絳攸は言われるがまま、手巾を袖から取り出した。
その手巾は先ほど秀麗の手を拭いてやったせいで既に橙色に汚れていたが、きっと黎深はそれさえ「秀麗と同じv」で嬉しいのだろう。黎深は養い子が丁寧にその手を拭うのを、満足そうな笑顔で眺めていた。
一方絳攸は、やはり秀麗の手とは全然違うな、あかぎれもなくてスベスベ、指も長くて相変わらず綺麗な手だ、などと思っていた。
それを綺麗に拭き終えた絳攸は、窺うように黎深を仰ぎ見る。
「これでよろしいですか、黎深様」
「……ふむ。まぁいいだろう」
微笑んだ黎深は、まだほんの少しべとつく手で卓子の蜜柑を手に取った。
「せっかくだから食べるか。――そうだ絳攸、お前は先ほど秀麗と蜜柑を食べたのだよな?」
「え、ええ……」
「蜜柑は秀麗が持ってきたのだろう? 秀麗が肌身離さず持っていたのは、私があげた蜜柑だったか? それとも玖琅からの……!?」
玖琅様も秀麗に蜜柑を贈ったのか、と思いながら、絳攸はすっかり橙色に染まってしまった手拭を丁寧に畳み直した。
その隣では黎深が少々不器用に蜜柑を剥いている。潰れかけた蜜柑から汁が滴って、また黎深の手を濡らしていたが、絳攸はそれを見てもあえて何も言わなかった。
拭いてあげようにも、もうこの手巾は使えまい。
「黎深様からの蜜柑でしたよ。『知らない人にもらった』と言っていましたから」
「む。そうか」
秀麗からの「知らない人」発言にもめげず、黎深は即座にデレッと笑み崩れた。デレデレ笑顔でいつも通り姪自慢を始める。
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