*夕日色の雫*
(キリリク4000)


【4】

黎深はデレデレ笑顔でいつも通り姪自慢を始める。
「そうかそうか、私の蜜柑を食べていたか。秀麗は小さい頃から蜜柑が好きでな。私が剥いた蜜柑を、私の指ごとちゅぱっと食べていた小さな秀麗は、それはもう、かわいくてかわいくて……!!!」
「……それはようございましたね」
「ああ。あの秀麗は本当にかわいかった……。――そうだ、お前もやってみろ」
「……は?」
「蜜柑もちょうど剥けた。ほれ、口を開けろ。かわいく食べてみろ」
そういえばもう一枚手巾を入れていたかも、と懐を探っていた絳攸は、唐突に蜜柑を突きつけられて瞠目する。
黎深は、驚きのあまり固まってしまった養い子の口唇にグイと蜜柑を押しつけた。逃げられないようにもう片方の手で絳攸の後頭を支える念の入れようだ。
懐に手を入れたまま頭まで押さえられてしまっては抵抗する術もなく、もはや諦めた絳攸は、瞳を閉じると養い親に言われた通りおずおずと口を開いた。
絳攸が口を開くと、蜜柑と共に黎深の指が入り込んでくる。最高級紅州産蜜柑の上品な甘味が広がると同時に、その指に口腔内を掻き回されるえも言われぬ感覚に、絳攸は眉根を寄せた。
そんな養い子の表情をしばし楽しんでから、黎深はゆっくりと指を引き抜いた。
「ふぅむ。やはり秀麗ほどかわいくはないが……」
「当たり前です! 俺はもういい大人ですよ! 食べるのにかわいいもへったくれもないでしょう!!」
やっと口が自由になって、絳攸は黎深にそう噛みつく。
真っ赤になって怒る養い子を前にして、そのセンのシュミの者には受けそうだな、と続けようとした黎深はそのまま口をつぐんだ。そうしてにっこりと笑う。笑顔が何か企んでそうに見えるのは、彼の特徴でもある。
その笑顔に、絳攸はウッとたじろぐ。
「な…、なんですか……」
「絳攸。幸いここにはたくさんの蜜柑がある」
「え、ええ……」
「無論ここだけではなく、氷室にもたくさん保存してある。貴陽中の紅州蜜柑を買い占めたからな」
「それがどうしたんです……?」
まだ話が見えてこない絳攸は、養い親の言葉に首を傾げた。
それに黎深は楽しそうに笑う。
「材料は山ほどある。絳攸、これからお前は『かわいく蜜柑を食べる練習』、しなさい」
「――…………はい? 黎深様、い、今なんて……」
「何度も言わせるな。私は『かわいく蜜柑を食べる練習をしろ』と言ったのだ。できないものは克服しろ」
これは当主命令だ、と言った黎深はさも楽しげに笑うと、「手を洗ってくる」と室を出ていく。
残された絳攸は、綺麗に積まれた蜜柑の山をただ呆然と眺めるしかできなかった。

END.
【←3】
4000Hitの沙希様からのリク「黎深様に蜜柑を食べさせてもらう絳攸」でした。が、すいません、セクハラ黎深様で……(苦笑)

【キリリクTOPへ】
【TOP】
(C) asakawa itsuki
all right reserved.