*何ものよりも何よりも*
(キリリク10000)
【5】
子供は意外にすばしっこく、小径をチョロチョロと走りまわった。
だがそれも長くは続かなかった。
「わぁっ!!」
急にバタンと子供が転んだのだ。
鳳珠は内心「助かった」と思った。さっそく子供に駆け寄ってそれを助け起こすと、明らかに怯えた瞳で見上げられる。そんな表情を向けられたのは生まれて初めてで、鳳珠は思わず苦笑した。
「大丈夫か。――ええと……」
「ぎ……」
「ぎ?」
子供に向けて優しく微笑んだ(つもりだった)鳳珠は、次に轟いた悲鳴と、それに次いで与えられた衝撃とに粉々に打ち砕かれた。
「ぎゃ〜〜〜!!!!! れいしんさまぁ〜〜!!!」
バキッ。
子供が叫んだのとほぼ同時に、鳳珠の頭に扇が命中したのだ。
頭を押さえてうずくまった鳳珠の腕を擦り抜けた子供は、その背後に立つ人物に駆け寄る。
「黎深様!!!」
「鳳珠、人の養い子を泣かせるとはいい度胸だな?」
鳳珠がゆっくりと振り向くと、そこには眉間に深くしわを刻んだ紅黎深が立っていた。身体中から紅い怒りの気が見えるのは、おそらく気のせいではない。なぜ今この瞬間にちょうどよく現われたのだ、と鳳珠は間の悪さを呪った。
「だが黎深、私はお前のために子供を探して……」
「泣かせろとも、ケガをさせろとも言っていないぞ、私は」
「………………すまなかった」
鳳珠はここで黎深に怒られるのも彼に謝るのも非常に不本意だったが、どんな理由があるにせよ子供を怯えさせたことは事実であるので、一応素直に頭を下げた。
「――まぁいい。とりあえず子供は見つかったのだし……」
それだけ言って黎深はその場に膝を折った。と、懐から手巾を出して子供の腕に巻く。どうやら子供は転んだ拍子に肘を擦りむいていたらしい。細い腕に手巾を巻き終わると、黎深はおもむろにその身体を抱き上げた。それに一番慌てたのはなぜか当の子供だった。
「れいしんさま!?」
だが黎深はそんなことを気にする男ではない。腕の中で暴れる子供など気にもとめず、鳳珠に向き直った。
「帰るぞ。――鳳珠、君も来るだろう?」
「いや、私は……」
「どうせ暇なのだろう。それにまだコレを紹介していない」
一応紹介してくれる気はあるのか、と鳳珠はそれにゆっくりと頷いた。彼も子供に対して多少なりとも興味があったからだ。
「そういうことなら、行こう」
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