*何ものよりも何よりも*
(キリリク10000)
【4】
(事情が事情とはいえ、やはり下手に街など歩くものではないな……)
そう思いつつ、鳳珠は黎深から言われたとおりに子供を探して歩いていた。
前から歩いてくる者はことごとく歩を止めて鳳珠の顔に見入ったし、通りすぎたあとも彼らは視線で鳳珠の背中を追う。道端の商店では、店の者も客もそれぞれ接客や買い物を忘れて、道を通りすぎていった美貌の主をポカンとした表情で見送る。中には失神してバタリと倒れる者すらあった。
――というように、鳳珠は周囲から視線を浴びまくって街を歩いていた。彼が歩くだけで、周囲の者たちが一切合切、動きを止めていくのだ。
自分以外に動くもののほとんどない街を、鳳珠は無言で歩いていた。
それからしばらくして、鳳珠はようやく視界の端に動くものを捉えた。
(む。ひょっとしてアレか……?)
鳳珠の先を、ひょこひょこと覚束ない足取りで歩いていく子供がいた。髪の色は銀。――おそらくアレが黎深の拾った子供に間違いないだろう。
鳳珠は少し歩調を速めながら、前を歩く子供に思いを馳せる。
(あの黎深が拾った子供。あいつの至上の楽しみである兄一家との時間をフイにしてまで、自ら探しに向かわせるほどの……。――見れば分かる、とも言っていたが、はて、どんな子供なのだろう)
後姿を見る限りでは普通の子供のようだが……、と思いながら鳳珠はその小さな背を追いかけた。だが子供と大人では歩く速度がまったく違う。鳳珠はすぐに追いついて声を掛けようとし、そこでハタと気付いた。
(…………あンのバカ男め……っ!)
声を掛けようにも、名前を聞いていなかった。あの男は最低限の子供の特徴しか言っていかなかったのだ。そのため鳳珠はマヌケにも口を開け手を挙げたままでしばし固まってしまった。
しかしここで声を掛け、子供を確保しないことには邸に帰れない(意外にも律儀な男である)。
「…………あ〜、その、そこの君」
下手なナンパ師のような台詞を口にした鳳珠は、振りかえった子供を見て素直に感嘆した。
「はい?」
鳳珠を振りかえった子供は、幼いながらそれはそれは美しかった。きょとんとした瞳で見上げてくる仕草が愛らしい。表情からも賢そうな様子が窺えた。しかも鳳珠を見ても失神せず、自我を保っている。黎深の「見れば分かる」「一応、男」という言葉の意味を鳳珠はようやく理解した。
だが子供の方は、声を掛けてきたくせに何もしゃべらない変な男を怪訝そうに窺った。
「おれ…、私に何か用でしょうか」
「あ、ああ、その、君の名前を教えてくれないか」
「…………?」
あからさまに不審そうな顔をした子供に、鳳珠はしまったと思った。これではまるっきりナンパではないか。
「ああ、いや違う、私は怪しい者ではない。その、友人に頼まれてだな」
だが子供は、余計にあやしい、と判断したらしい。子供は突如、脱兎のごとく走り出した。
「待て! ええと……」
ああややこしい、と思いつつ鳳珠はそれを追いかける。
「待ってくれ! 君は黎深の拾った子供だろう!!」
黎深、の名前に一瞬ビクッと反応した子供は、さらに走る速度を上げた。おおかた、紅家の財産目当ての誘拐犯だとでも思われたに違いない。子供は意外にすばしっこく、小径をチョロチョロと走りまわった。
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