*君への道*
(キリリク56465)
【3】
(あンのクソジジイ! 絳攸を王の側近にだと!? ふざけやがって!)
内心湧き上がる怒りを抑えつつ、黎深は回廊を歩いていた。
あの老臣はいつも"王のため"という勝手な大義名分で、黎深から大切な者を取り上げようとする。国も王も大嫌いな黎深にとって、霄太師は諸悪の根源とも等しかった。そんな霄太師の要請など、はなから聞くつもりはない。それに、憎い先王の子であるばかりかロクに政事もせぬ現王に、黎深は決して忠誠を誓っていない。もちろん、男色家といわれる王の側に大事な養い子をやるつもりなどサラサラなかった。
確かに"王の側近"というのは世間的に見れば良い立場ではある。若手の出世街道でもあるに違いない。この先ずっと朝廷に仕え上を望むのなら、絳攸にとっては意外と悪くない話なのかもしれない。だが、黎深が絳攸に望んでいるのは"自分の思うように生きる"ことであり、"今"の絳攸の望みは"黎深の側で仕えること"であるのも、黎深はうぬぼれではなく知っていた。もし今黎深が霄太師の言葉に頷けば、その希望に反し、他ならぬ黎深が養い子の進路を変えることになるのだ。
なによりも、黎深自身の気持ちは――。
そんなことを色々考えながら黎深が向かった先は、府庫だった。
「兄上」
「……紅尚書、ここには来ないでくださいと申し上げたでしょう。第一、朝廷で私を兄と呼ぶなとあれほど――」
府庫で書翰の整理をしていた紅邵可は、突然室に入ってきた弟をたしなめようと振りかえり、その表情を見て言葉を途切れさせた。邵可の弟は、珍しくも揺れた表情をしていたから。
「……まぁいい、入りなさい、黎深」
「はい」
「お茶を淹れよう。座っていなさい」
「はい」
邵可は一体どうしたのかとは聞かなかったが、兄にだけは素直な黎深は、事の成り行きをポツポツと語り出した。
「……それでクソジジイに絳攸を寄越せと言われて……。でも私は、クソジジイにもハナタレ小僧にも、協力してやるつもりはありません! 絳攸を手放すつもりもまったくありません!!」
「だけどきみは、そう言いながらも迷っている。――そうだろう、黎深」
そう指摘され、黎深はグッと言葉に詰まった。そんな弟を見て、邵可は微笑んだ。
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