*君への道*
(キリリク56465)


【2】

「そう、朝廷随一の才人と名高い、かの青年じゃ。しばらく私に預ける気はないかの?」
「お断りします」
即座にバッサリと言い切った黎深に、霄太師はふぉっふぉと笑った。
「ほんにそなたはつれないのぅ。詳しい話くらい聞いたらどうじゃ」
「聞いても聞かなくても答えは同じです。アレは当分どこにもやるつもりはありません。特にあなたには、決して」
黎深は最後の一言を強調してギロリと睨んだ。だが霄太師はそれをまったく気にすることなく言葉を続ける。
「まぁ、厳密にはわしの元という訳ではなく、主上の輔佐をしてもらおうと思うておるのじゃが」
「それこそご冗談でしょう。執務をしない王に、輔佐など必要ない」
「……その言葉、そっくりそなたにも当てはまるような気がするのじゃが……」
「私とて最低限の仕事はしておりますよ。きちんと出仕もしております。後宮に籠もりきりで朝議にも出ないハナタレ小僧などと一緒にしないで頂きたい」
「じゃからこそ、主上には有能な側近が必要なのじゃ。主上はまだ即位して間もなく、何をすればよいのかも分かっておられぬ。その点、李絳攸殿ならば主上と歳も近いうえに、能力も申し分なく、見目も麗しい。そんな側近が側におれば、きっと主上も"やる気"になられるじゃろうて」
どんな"やる気"だ、と黎深は思った。
「なおさら冗談ではありません。あなたは絳攸に侍官の真似事をせよと仰るのですか」
「そうは言っておらぬ。わしはあくまで政事の輔佐と思うておる。"王の側近"じゃぞ、若手官吏にとって悪い話ではなかろう? 出世街道まっしぐらじゃ。――のう、黎深殿。そなたが部下であり養い子でもある李絳攸殿、悪いようにはせぬぞ」
「お断りします。あなたの言葉は信用できない。それに、無理な出世などせずとも結構です。アレは放っておいてもいつか勝手に上に行きます」
では失礼、と黎深は有無を言わせず霄太師に背を向ける。
「まあ、わざわざそなたを通さずとも官吏一人を召し上げる方法はいくらもあるのじゃがな、わしには」
じゃがまだしばらくは猶予を差し上げよう、じっくり考えなされ、という声を受けつつ、黎深は室を後にした。

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