*君への道*
(キリリク56465)
【1】
「…………私に一体何の御用でしょうか、霄太師」
「ふぉっふぉっふぉ。まあそんなに怖い顔をなされますな、紅尚書」
せっかくの美貌が台無しですぞ、と続けた老官吏に、対する紅黎深は眉間のしわを1本増やした。
だが、前々からこれ以上ないほど憎んでおり、隙あらばと命をも狙っている相手に呼び出されて、上機嫌でいろというほうが無理だ。黎深は不機嫌さを隠そうともせずに、手にした扇を握りしめた。
「生憎と私はこういう顔なんです。それより早くご用件を」
「まあまあ。茶でもどうじゃ? わざわざ取り寄せた甘露茶じゃ。美味いぞ」
反対にほくほくとした笑顔で茶をすすりだした霄太師に、黎深はこめかみに青筋を立てた。
「私はあなたと茶を飲みにきたのではありません。茶飲み友達が欲しいのならその辺のジジイやババアでも連れてきたらどうです。私はあなたと同じ空気を吸っていることすら嫌なのです。用が無いなら帰りますよ」
「つれないのぅ……。5回も呼び出して、ようやく応じてくれたと思うたに……」
「私とてあなたの室になど来たくもなかったのですが、行かねばあなたが私の室に来ると仰られたので、仕方なく来たのです。あなたが何度も使者を遣わすほどですからさぞかし重大な用件だろうと思い、多忙ななか、こうしてわざわざ足を運んだのですが、用が茶だけなら失礼致します」
はるか上官に対しても言いたいことはズケズケと言ってのける黎深を、霄太師はおもしろそうな顔で眺めた。手にしていた湯飲みを机案に戻すと、ゆっくりと黎深に向き直る。
「わしはそなたを嫌いではないのじゃがなぁ……。まあよい。そなたへの話というのは、ほかでもない、そなたの副官のことじゃ」
「……李絳攸でしょうか」
「そう、朝廷随一の才人と名高い、かの青年じゃ」
【2→】
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