*握った手*
(10万HIT企画その2)
【3】
「ああそうだわ。えーと、楸瑛さん?」
「はい?」
「とりあえずこの子をどこかちゃんとしたところで寝かせてあげないと。運ぶのを手伝ってくださる? それからね、紅州から早生みかんを持ってきたの。秀麗ちゃんのお室に置いて来ちゃったから、一緒に取りに行ってくださるかしら」
この子、と百合は自分の膝で気を失って寝ているリオウを示した。
確かにリオウには休息が必要だが――。
「だ、だめです百合さん!!! こんな常春男と2人で出歩くなんてー!!!」
「そ、そうだ! よ、余も行くのだ!」
楸瑛をこんな美女と2人きりにしたら、確かにキケンな気がする。それに万が一のことがあったら、それを阻止できたのにしなかった自分も、黎深と絳攸に殺されると感じた劉輝は、お供に立候補した。
「絳攸、主上……。そんなに信用がないのかい、私は?」
「あるわけないだろう!! 自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ!」
「そうだぞ! 余は後宮からの苦情処理が大変だったのだ!」
2人から畳みかけられて、楸瑛はしくしくと泣いた。
「うう……。ということなので、すみません百合様……。残念ですが主上も一緒でよろしいですか?」
「え、ええ……。3人とも本当に仲良しなのね。でも、この子を運んでみかんを取ってくるだけなんだけど……」
花街一の色男・藍将軍の武勇伝は百合もよく知っていたから、絳攸や劉輝が反対してくれた気持ちは分からなくもなかったし、確かに宮城内を自分と楸瑛が並んで歩いていたら人目を引きまくるだろう。黎深に知れたらそれこそ楸瑛の命が危ない。その日の瓦版三面には「国一番の色男・藍楸瑛が不審死! 直前に紅家当主の妻と白昼の密会!?」などという見出しが踊るに違いない。
だが3人で行くとなると、ようやく覚醒したばかりの絳攸を一人で置いておくことになる。少年一人を運ぶのに大人3人がかりというのもおかしな話だと百合は思った。
「じゃあ、荷物持ちは主上にお願いして、楸瑛さんには絳攸をお願いしようかしら」
王に荷物持ちをさせるのも気が引けると思って楸瑛を誘った百合だったが、劉輝が自分から行くと言い出したのだからいいだろう。
そう思って、百合は劉輝に微笑みかけるとその手を取った。
「はいっ、なのだ〜!」
それに慌てたのは絳攸だ。楸瑛よりはマシだろうが、劉輝と百合が2人で歩いていたなどと黎深が知ればどんな報復が待っているか知れない。
「ゆゆ、百合さん! 俺は一人でも大丈夫ですよ!? ……って、何ちゃっかり手なんか握ってんだ主上ー!!!」
「おやおや。"お母様"にお願いされちゃったから、仕方ないね絳攸。2人で仲良く待っていよう。この薄暗く狭い牢の中で」
「"お母様"とか言うなっ! やめろ離れろ触るな常春!!!」
"お友達"とじゃれあう息子を微笑ましく思いながら、百合は手を振った。
「じゃあ待っててね絳攸。すぐにみかん取ってきてあげるから」
「行ってくるのだ〜」
そう言って牢を出て行った2人(+リオウ)を見送った絳攸は、牢から出られない自分の身を初めて呪いつつ、その背を見送った。
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