*白と黒のまほう*
(黎深・絳攸)
【2】
お館様のおなりです、と告げられて室の扉が開かれた。
そこから現れたのは目にも鮮やかな紅の衣をまとった紅黎深だ。
「あ、黎深様! あけましておめで…………」
言いかけた言葉を不自然に飲み込んだ絳攸に、黎深は顔をしかめた。
「どうした」
「いっ、いえっ、なんでもありません!!」
「それが何でもない態度か?」
「ほ、本当に、あの、なんでも、ありません!」
そう言いつつ、絳攸はちらちらと黎深を見遣る。
(うわ、うわ、うわぁ……!)
なんだこれ、と思いながら絳攸はただ黎深が歩いてくるのを窺っていた。
黎深はいぶかしげな表情でゆっくりと絳攸の元へと近づいてくる。そうして彼の真横に立つなり、手にしていた扇でぐいと絳攸の顎を持ち上げた。
「嘘をつくな」
「………………っ!」
息を飲んだ絳攸の顔をまじまじと見つめ、黎深は口元を緩めた。
「何だ、頬が赤いな。風邪でも引いたか?」
そうして顔を近づけてきた黎深に、絳攸は思わず目をつぶった。顎は扇で固定されたままだ。逃げ場はない。
こつん、と額が触れあって、そこからじんわりと熱が広がる。
「ふむ。取り立てて熱くはないようだな」
絳攸は固く瞳を閉じていたが、そう言った黎深が間近で微笑んだのが分かった。ふふ、という息が頬にかかる。
(し、しぬ! 心臓がどきどきしすぎてしぬ!!!)
このどきどきは何だろう。尋常ではないどきどき感だ。
ゆっくりと額を離した黎深は、ふむふむ、と考え込むそぶりを見せた。
「熱ではないとすると、私が来る前に屠蘇でも飲んだのか?」
「ち、違います! 黎深様を差し置いてそんなことはしません!!」
「では、どうした」
「それはその……っ」
(どどどどどどうせつめいすれば!!!)
至近距離で覗き込まれて、絳攸は混乱の極みにいた。
黎深を見るとどきどきして、息苦しくなる。それなのに、なぜか目が離せない。鼓動はどんどん高まり、じんわりと瞳が潤んでくる。それでも、目が離せなかった。
(こ、これはひょっとして、ウワサにきく……)
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