*うむがやすし*
(黎深・絳攸)
【2】
「……くっ。どうすれば鍋に近づけるんだ……っ」
「絳攸様……」
このままでは火事になる、と見かねた料理人たちが手を出しかけたその時。背後から冷たい声が掛けられた。
「何をやっている。私は菜を作れとは言ったが、跳躍の練習をしろとは言っていないぞ」
「れ、黎深様……っ」
振り向いた絳攸は、ぎょっと顔をひきつらせた。その視線の先には眉間に皺を寄せた養い親が立っている。
庖厨の様子を一瞥した黎深は、即座に料理人たちに指示を下す。
「即刻火を消し、かまどから鍋をおろせ。絳攸、お前はこちらへ下がりなさい」
料理人たちは当主の命にすぐさま従い、程なくして無事、件の鍋は火からおろされた。
「皆、ご苦労」
おろされてもなお、ぱち、ぱち、と微かにくすぶる鍋をしばし見つめ、黎深は自分の隣でしゅんとした養い子に向き直った。
「――絳攸、お前は邸を火事にするつもりか」
「申し訳ありません」
「そろそろできる頃かと思って見に来たのだが……。まだまだのようだな?」
「はい……」
うなだれた絳攸を見下ろして密かに溜息をついた黎深は、その手を掴むと少々強引に引き寄せる。
驚いたのは絳攸だ。
「れ、黎深様!!??」
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