*うむがやすし*
(黎深・絳攸)
「案ずるよりも」をお先にどうぞ


【1】

「ええと、材料は切ったし……、あとは炒めればいいの…か……?」
包丁片手に絳攸はうぅん、と唸って首を傾げた。
黎深に突然「青椒肉絲を作れ」と命じられた彼は、紅家母屋の庖厨で悪戦苦闘していた。慣れない手つきながらどうにか肉と野菜を切り終えた絳攸は、後ろで控える紅家専属料理人を振り返る。だが料理人たちは是とも否とも取れない微妙な表情でそれに応えた。
彼らは非情なる当主の命によって、絳攸に菜指導することを禁じられていたのだ。せめてもの救いは、青椒肉絲に使用する食材・調味料・調理道具一式が揃えられていたこと。用意されていたこれらを万遍なく使用すればそれらしいものはできるはず、と絳攸は自分を奮い立たせた。
「ええい、迷っていても仕方がない、やってやる!」
絳攸は訳あって昨日も邵可邸で夕食を作っていた。だが昨日は静蘭指導の元、楸瑛と二人で分担して作ったので、自分が担当していないことや詳しい手順までは覚えていない。正直、切った肉や野菜を炒めて最後に調味料を入れていた、くらいしか記憶になかった。
「とりあえず、炒めるなら油を入れるんだよな」
絳攸はかまどの火の上に中華鍋を置き、そこにお玉一杯に掬った油を入れた。熱せられた油がパチパチと音をたてる。
「次は……。これでも入れてみるか」
パチパチと程よく温まったふうな鍋に、絳攸はさっそく横に置いておいた皿から材料を投入する。それは先ほど、これでもかというほど切って叩いて粉々にしまくった生姜と大蒜だった。
「うぁっ、ち!!!」
入れた途端、そう叫んだ絳攸は慌てて手を引っ込めるとそのままの勢いで反射的にピョンと後ろに飛んだ。
鍋に入れた生姜と大蒜が盛大に油と反応し、はねる。
「なんだこれ!! っ、とにかく鍋を火からおろさないと……っ、あち! あっつ!!!」
アツアツでたっぷりな油の中に水気いっぱいの生姜や大蒜を入れれば、はねるに決まっている。バチバチッ、とはねまくる油に、絳攸は慌てて鍋の持ち手を掴もうとするが、はねる油が邪魔して上手くいかない。
「あち、あち!」
熱いと言いながら絳攸は耳たぶを引っ張りつつ鍋の横でピョンピョン跳ねまわる。
「……くっ。どうすれば鍋に近づけるんだ……っ」

【2→】
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