*ちいさなかがやき*
(黎深・絳攸)


【3】

笑った黎深は、おもむろに懐へと手を入れた。
黎深の懐から出てきたのは、木の枝だった。否、小さな花のついた木の枝だった。
黎深は、小さくかわいらしい花を咲かせるその枝を絳攸へと渡す。
「……花……?」
「そうだ。母屋で咲いていた白梅だ。あちらが咲いたのなら、こちらの梅も咲いているだろうと思ってな」
やはり僅かに咲いているな、まだほとんど蕾だが、と言った黎深に倣って、絳攸もあたりの木を注意深く見渡した。
なるほど、確かに小さな蕾や、紅い花がところどころに見受けられる。こちらの梅は紅梅だった。
黎深はためらいもなく咲き初めのその枝を手折る。
と、踵を返した。
「行くぞ、絳攸」
「え?」
「用は済んだ」
「え、え、ええ!?」
すたすたと歩き出した黎深に、絳攸は慌ててついていく。
その手には黎深から渡された白梅。そして黎深の手にはたった今手折った紅梅。
離れへと向かいつつ、絳攸はついに疑問を口にした。
「黎深様は梅の花を手に入れるために、わざわざこちらへいらしたんですか?」
「悪いか」
「いえ……。ですが、明日でもよかったのでは」
「今日咲いたのだ。今日見たいに決まっているではないか」
「…………そう、ですか……」
それだけでこの寒い中、暗い庭院を歩いて梅を……、とは、やはり絳攸は口にしなかった。
養い親に何か言っても口で勝てる訳なく(口どころではなく身体でも勝てない)、たとえ理由を説明されたところでそもそもこの人の発想や思考は絳攸には理解しきれない、ということが分かっていたからだ。
今はとりあえずおとなしくついて行って早く離れに戻ることだけを考えよう、と絳攸が思っていると、これまた唐突に黎深が立ち止まった。
今度はなんだ、と思いつつ絳攸は周囲を見回した。

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