*ちいさなかがやき*
(黎深・絳攸)
【2】
それから半刻ほど後。
離れを訪れた黎深は、早速ほこほこと湯気を立てる蒸篭を開けて、こうのたまった。
「私は饅頭を作れと言ったはずだが」
「……饅頭ですよ……」
「煎餅に見えるのは私の気のせいか、んん???」
「…………ま、まんじゅうです……」
少しずつ小さくなっていく声と絳攸に、黎深はふふんと笑うと蒸篭のフタを閉める。
「お前はちっとも進歩せんな。――まぁいい。来なさい」
「え?」
「来なさい、と言ったのが聞こえなかったのか」
「い、いえ……。ですが黎深様、饅頭を食べにいらっしゃったのでは?」
「誰がそんなことを言った。行くから饅頭でも作ってもてなせ、とは言ったが」
同じことでは、と思いつつ、賢明な絳攸は口には出さなかった。
絳攸がおとなしくついていくと、何と黎深はそのまま庭院へと下りた。
ほとんどの家人たちも寝静まった深夜、月も出ていない真っ暗な庭院を燭台片手に迷いもなく進んでいく黎深に、絳攸はおそるおそる声を掛ける。
「れ、黎深様?」
「なんだ」
「どちらへ向かわれるのですか?」
「私はお前と違うからな、自邸の庭院で迷うことなどないぞ。安心しろ、ちゃんと連れてかえってやる」
そんなことを訊いたんじゃない、と絳攸は言いたかったが、これも口に出さなかった。
よく分からないが、黎深には何か目的があるらしい。絳攸は、黎深の手にした燭台の灯りを頼りにその背を追いかける。
しばらくして、黎深は唐突に立ち止まった。
「ああ、ここだ」
ここ、と言われて絳攸は周囲を見回した。だが、闇夜の中では植木の枝が見えるきりだ。
黎深は一体何が目的なのだろう、と絳攸は首を傾げて養い親を見上げる。見上げた黎深の横顔は、満足そうに笑っているように見えた。
「黎深様? ここに何があるのですか」
「分からないのか?」
「分かりません」
それに笑った黎深は、おもむろに懐へと手を入れた。
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