*父の日*
(絳攸・楸瑛・黎深・奇人・邵可)


【8】

「――なんだ?」
「え、いえ、あの……」
「味も形もいつもと変わらんな」
それだけ言ってもぐもぐと饅頭を平らげていく黎深に、絳攸は瞳を丸くした。
いつもなら「なんだこの煎餅は。粉っぽい。甘くない。固い。作り直せ」くらい言うのに、と驚いて見ていうちに、黎深は1つめの饅頭を食べ終わってしまった。
「何だ絳攸、言いたいことでもあるのか? まさか食べた饅頭を返せなどと言うのではあるまいな? これはお前が私の為に作ってきた饅頭だろう? 今更返さぬぞ」
「え……?」
「そういえば、さっきからその後ろに隠しているのは何だ」
思いがけない黎深の言葉に、絳攸は慌てて後ろ手に抱えていたものを持ち直すと、黎深におずおずと差し出す。
「あの、ええと、黎深様への贈り物です……」
「贈り物? そんなものもらう覚えはないが」
「ち…………、父…の日……、です……………………」
真っ赤になってそう言った養い子の前で扇をはためかせた黎深は、ふぅんと呟くとそれに手を伸ばした。
受け取ったものの包装を解くと、現われたのは扇と酒だった。
「………………絳攸、これは何だ」
「お、扇と酒です……」
「そんなこと分かっている。――私はなぜコレかと聞いたのだ」
「あ、ええと、この酒は黎深様のお生まれになった歳に作られた酒だそうで……」
邵可にああ言われた後、さすがに饅頭だけではと思った絳攸は、それまで見て回った店の中でこれならどうかと思ったものを求めてきたのだ。
「ふぅん……」
そう呟きながら、ハラリ、と扇を開いた黎深は瞬間瞠目する。

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