*父の日*
(絳攸・楸瑛・黎深・奇人・邵可)


【9】

開いた扇には李が描かれていた。
「…………………………」
沈黙してしまった養い親に、絳攸は慌てて言い繕う。
「あっ、あの、俺は、紅い椿の柄がよいのではないかと思ったのですが……、しゅ、楸瑛が、こっちの方が黎深様に似合うのではないかと言って――っ!」
紅い扇を買おうとしていた絳攸に、楸瑛は「黎深殿はほかの身の回りのものが紅すぎるから、扇くらいこっちの白い方がいいんじゃないかな」と言ってこれを差し出したのだ。
絳攸とて、もちろんその扇は気になっていたが、自らその意匠を選ぶことはさすがにできなかった。
それを見越した楸瑛の言葉に乗せられた形で、絳攸はこれを選んだのだ。
「――早速飲むか。肴と盃を持ってこい」
ぱたぱたといい香りのする新品の扇をはためかせながら、黎深は家人を呼んだ。


それから一刻ほど後。
黎深の膝上ですやすやと眠る絳攸の姿があった。
「まぁ、あの小僧もたまには気が利いたことをするものだな」
ぱたり、ぱたり、と紅い顔で眠る絳攸を李柄の扇であおいでやりながら、黎深はすっかり冷めた饅頭をかじる。
その顔には嬉しそうな笑みが溢れていた。

END.
【←8】
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