*父の日*
(絳攸・楸瑛・黎深・奇人・邵可)
【7】
邵可邸を出、街で少々の買い物をした絳攸は、邸に帰るなり厨房に篭った。
手伝いましょうか、という家人の申し出を断り、ひたすら小麦粉を練る。お世辞にも料理が上手いとは言えない絳攸だが、少しでも良くできるように、と念を込めて形を整え、蒸篭に入れた。
「れ、黎深様!」
絳攸が扉を叩いてしばらくすると、許可の声が聞こえた。
「入れ」
そこにはゆったりと長榻に寝そべり、扇をはためかせている養い親の姿があった。
いかにも大貴族然としたその姿に、絳攸は少々気後れしつつ、片手に持っていた蒸篭を差し出した。
「あ、あの、饅頭作ってきました」
「――ほう? 珍しいな、お前が自発的に饅頭を作るなど」
普段なら作れと言っても嫌がるのに、と言った黎深は、ゆっくりと身を起こす。
黎深がその優美な指で卓子に置かれた蒸篭の蓋を開けると、ほわんと周りにいい香りが漂った。
黎深と絳攸は期待に満ちた表情でその蒸篭を覗きこむ。
だが。
そこにあったのは、その香りとはウラハラに、到底"饅頭"とは思いがたい薄っぺらいシロモノだった。
――結局はいつもと同じようなものしかできなかったのだ。
「…………」
「………………あの、すみません………………」
シュンとうなだれた絳攸は、申し訳なさそうな声で謝った。
しかし、矢のように降ってくると思っていた黎深の嫌味は、いつまで経ってもこない。
そろりと絳攸が顔を上げると、ちょうど饅頭を食べようとしていた養い親と目が合った。
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