*にわにはにわにわとりがいる*
(黎深・絳攸)


【4】

黎深はパタンと扇を閉じると懐にしまい、パンパンと掌を打った。
「誰かある」
当主の誰何に、すぐに幾人もの家人が集まってくる。
「いかが致しました、お館様」
「その辺に鶏が一羽逃げているだろう。それを捕まえるように」
「はい、ただいま」
件の鶏を追って散っていった家人を見遣って、黎深は絳攸を振り返った。
「お前のようなとろくさい者が一人きりでがんばったところで無駄だが、数人で挟み打てばすぐだ。子供騙しの罠を作るよりよっぽど早くて確実だ」
そんなことも分からないのか、と言いたげな黎深に、絳攸はうなだれる。
「まさか家人を使うのがイヤだなどと思っているのではないだろうな。家人は使うためにいるのだと何度言ったら分かる?」
「…………はい」
まるで絳攸の思考を読んだかのような黎深の言に、絳攸はあっさり白旗を揚げた。自分がこの養い親に勝てるわけないのだ。
それからすぐに、鶏を抱えた家人が二人の元にやってきた。
「黎深様、この鶏でしょうか。いかが致しましょう?」
「絳攸にくれてやれ。――ああ待て、その前にしっかり縛ってからだ。そうしないとお前はまたうかうか逃がしそうだからな。今のうちに忘れないよう軒に吊るしておけよ」
扇を取り出した黎深は、その下でふふんと笑いながらそう言った。
うっと呻いた絳攸は、家人がしっかり拘束してくれた鶏を受け取りながら、首を傾げる。
「? どうして軒に……」
「明日持って行くのだろう?」
「!」
黎深は明日が「お夕食の日」なのも、それに食材を持っていくのが恒例なのも、絳攸が鶏料理を好きなのも、とうに分かっていた。分かっていて絳攸をからかっていたのである。
「他に欲しいものがあれば家令に言うがいい。お前が自分で調達する必要などどこにもない。変な引け目など感じるな」
「はい……」
素直にコクンと頷いた養い子に、黎深は手を伸ばした。

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