*にわにはにわにわとりがいる*
(黎深・絳攸)
【5】
素直にコクンと頷いた養い子に、黎深は手を伸ばした。
すっと頭を撫でていった黎深の手に、絳攸は瞠目する。
いまじぶんになにがおこったのか。
信じられない、という風に硝子玉のような瞳をまんまるに見開いた絳攸を見て、黎深は笑った。
「早く着替えるんだな」
黎深の手からひらりと葉っぱが落ちて、絳攸は、あ、とようやく納得した。
(頭についた葉を取ってくださったのか)
「ありがとうございます、黎深様。……そういえば黎深様はなぜこの庭院に?」
広い敷地面積を持つ紅家本邸は、建物だけでなく庭院が何箇所もあった。ここは絳攸の住まう離れに程近い庭院で、黎深が普段使用している母屋とはいささか遠い。
まっすぐな養い子の視線に、黎深は少し詰まった。
「……お前に用があったのだ」
「え。ひょっとして何か仕事のことで急用が!?」
「私が家でまでそんなことをすると思うか?」
「………………。じゃあ何のご用です?」
しごくもっともな絳攸の問いは思いのほか黎深を追いつめた。たっぷり数秒沈黙した黎深は、低く小さな声で呟いた。
「……………………饅頭を作れ」
「は?」
「聞こえなかったのか。饅頭を作れと言ったんだ」
「は、はぁ……。それこそ、俺じゃなく点心師に命じればいいことでは……」
「私に刃向かうのか?」
「い、いえ……」
「お前の饅頭作りの腕はちっとも上達しないからな。私が味を見てやるから、今日はみっちり特訓しろ」
素直に「一緒にお茶をしよう」とは言えない黎深は、そう言うと絳攸の返事も聞かず、踵を返して離れに向かう。
それを慌てて追いかけながら、絳攸は、明日秀麗にこっそり美味しいお饅頭の作り方でも習おう、と思った。
END.
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