*にわにはにわにわとりがいる*
(黎深・絳攸)
【2】
「――何の騒ぎだ、騒々しい」
「れ、黎深様……」
冷ややかな声に絳攸が動きを止め、振り返ると、そこには養い親の姿があった。いつもの扇を口許に当てつつ、ほんの少し顰められた眉根を見て、絳攸は本格的に固まった。
ここぞとばかりに絳攸から遠ざかっていく鶏を視界の隅で捕らえながら、黎深は自分の出現により硬直してしまった養い子を観察した。
明らかに、しまった、という表情でカゴを胸に抱え、頭に葉っぱをつけた絳攸は、どこかで転んだのか衣には泥もついている。その後方の地面に散らばった米粒と紐の巻き付けられた短い棒、そして逃げる鶏などから鑑みて、導き出される答えはひとつしかなかった。
彼の養い子は、どうしてか鶏を鳥小屋から逃がし、そうしてそれを捕まえようとして失敗し続けているのだ。
「絳攸、お前が鶏と追いかけっことは、ずいぶんと平和な世になったものだな」
「や、あの、黎深様、これはですね、あの鶏が逃げるから……っ」
「そもそもなぜ逃がした」
「うっ……」
「鶏が食いたいなら調理師にでも言えばよかっただろう。お前が自ら捕まえる必要などあるまい?」
「いえ、別にいま食べたかったわけでは……」
先日秀麗が作ってくれた鶏肉と葱の菜が美味で、もう一度食べたいから鶏を捕まえようとしていた、などとは絳攸は口が裂けても言えなかった。
明日は黎深の愛する兄・紅邵可邸での四日に一度の「お夕食の日」だった。邵可の娘、ようするに黎深の姪である秀麗に菜を作ってもらい、みんなで仲良く食卓を囲むというこの会には「食材持参」という参加条件があった。
しかし、姪に「叔父さんだよ」という名乗りをしていない黎深はいくら食材を持っていこうが「お夕食の日」には参加できない。どころか名乗りを上げるまでは邵可邸への立ち入りも禁止されている。
――そのため、絳攸はもちろん「お夕食の日」のことは黎深にも報告していたが、「秀麗の手料理」についての詳しい言及はできるかぎり避けていた。話したが最後、兄一家に異常な愛着を持っている(※ブラコン)黎深に非常に羨ましがられ、八つ当たりでいびられ、しまいには「お前が同じものを家で作れ」などと命令されるに決まっている。簡単なものならともかく、プロ顔負けの腕を持つ秀麗の菜など、絳攸がいくら努力しても真似できるとは思えない。人には向き不向きというものがあるのだ。
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