*ななつのちかい*
(黎深・絳攸)
【3】
「…………黎深様」
「なんだ?」
「ずっとそうしているだけでは、飽きませんか?」
黎深に『見守ってやる』と言われて早数日。
その言葉通り、彼は絳攸が朝廷にいる間はほとんど側にいる。
そのせいか以前は毎日のように侍郎室へ遊びに来ていた楸瑛もめっきり顔を出さなくなったし、黎深は本当にどこに行く際にもついてきたので、絳攸は遠慮をして王執務室には行かなくなった。
『見守られて』からのせめてもの救いといえば、尚書室までわざわざ印をもらいに行かなくて済むようになったこと、くらいである。
だがさすがに四六時中、見張ら――もとい、見守られていたのでは落ち着かない。
絳攸は意を決して黎深に告げた。
「おれ…、いえ私が仕事をしているところなどずっと見ていても楽しくないでしょう?」
「そうでもないぞ。これはこれで楽しい」
「…………」
すぐに予想外の答えが返ってきてしまい、絳攸は押し黙った。
絳攸が侍郎室にて仕事をしている間、黎深は長榻で寛いでいるか、さもなくば真横に座って共に書翰を眺めていることが多かった。大抵の場合は前者で、彼は今も長榻に半分寝そべるようにして絳攸を見ている。
仕事中、絳攸がふと視線を上げると、それほど楽しそうには思えない表情でどこぞを見ている気がするのだが……。
「――で、でもあの、黎深様にも他にやりたいこととか、おありでしょうし」
「別にないな。兄上の元に行っても追い払われるだけだし」
「…………」
確かに、ヘンに朝廷中をうろつかれているよりは、確実に吏部内にいてくれている今の状態の方がずいぶんとマシである。絳攸が「判をください」と言えばすぐにもらえるこの状況は、考えてみれば結構いいのかもしれない。
――などと考えそうになって、絳攸は首を横に振った。
いかな絳攸といえども、ずっとコレでは精神的に参ってしまう。室で2人きりなのはまだしも、侍郎室を出るのにこんなに神経を使うのはもうたくさん、である。厠に行くのも府庫に行くのも、親付きでは周囲の目が気になって仕方がない。
「わ、私に書翰を届けにくる官吏たちも、みな驚いてますし」
「そのうち慣れるだろう」
「…………。でも黎深様。黎深様には尚書としてのお立場が。侍郎室に詰めている尚書など……」
「尚書が侍郎室に居て悪いということはあるまい?」
「…………………………」
養い親に口で勝てるとは到底思っていなかったが、言うことすべてを即座に却下された絳攸は、本当にぐぅの音も出なかった。
言葉に詰まった養い子を見て、黎深はおもしろそうに笑った。
「『仕置き』だと言っただろう、絳攸?」
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