*続々・衣替え*
(黎深・鳳珠・悠舜、絳攸・楊修)
※「衣替え」「続・衣替え」をお先にどうぞ
【黎深・鳳珠編】
「ああ、いたいた、鳳珠。きみはいつ来てもここにいるから、探す手間がなくていいな」
「――黎深。貴様が仕事をしないのは勝手だが、私の邪魔をしにくるな。何度言ったら分かる」
「冷たいことを言わないでくれ、鳳珠」
勝手知ったる他人の部署、とばかりに我が物顔で戸部を訪れた黎深は、不機嫌そうな戸部仮面の長官などお構いなしでその執務机前に進んだ。
「どうだ、鳳珠♪」
そう言ってくるっと回った黎深は、いとも楽しそうに微笑む。
そんな友人に、黄奇人は呆れかえった声を返した。
「着せ替えごっこなら家でやれ。それともお前、降格でもしたのか」
「そんなことあるわけないじゃないか」
吏部侍郎の装束を身に着けた黎深は、にこにこと笑ったまま着ている衣を自慢げに引っ張った。
「ちょっととある実験がしたくてね。絳攸に借りたんだ。似合うだろう?」
「……くだらん……」
溜息と共にそう吐き出した奇人は、視線を机上の書翰へと戻す。
「つれないなぁ、鳳珠。せっかく見せにきてやったのに」
「いらん世話だ。妙な実験などしてないで、とっとと吏部へ帰れ!」
「ふふん。本当は羨ましいのだろう、鳳珠。きみも景侍郎から衣を借りてみたらどうだい?」
「ふざけるな! 柚梨にそんなことができるかっ!!」
おや結構楽しいのに、と言った黎深は、飛んできた硯をヒョイと避けると笑いながら戸部を出ていった。
【黎深・悠舜編】
「悠舜v」
ココンッ、と上機嫌な叩き方で室を来訪してきた友人を見た鄭悠舜は、即座に顔をしかめた。
「……黎深。早く絳攸殿に謝ってらっしゃい」
「な…っ、私はまだ何も言っていないぞ!? というかなぜ私がアレに謝らねばならん!」
「聞かなくても分かります。その衣は、どうせ絳攸殿から無理矢理"借りて"きたのでしょう? あなたが一体何をしたかったのかは知りませんが、おやめなさい。きっと絳攸殿に迷惑が掛かります。というかその衣を奪われた時点で既に十分迷惑を被っているとも言えますが」
「…………っ」
悠舜からそうばっさりと斬られてしまった黎深は、そんなことはない!と否定するしかなかった。
「合意の上だ!! アレは最初こそ抵抗したが最後は私にされるがままになったし、衣を脱がせる時だとて出来る限りやさしくしてやったのだ! 迷惑でなどあるはずがない!」
「………………………………」
他人に聞かれたら誤解されそうな台詞を大声で叫んだ友人を、悠舜はうろんげな目で見つめた。
「あっ、信じてないな、悠舜!?」
「――もうとにかく、早く吏部に帰りなさい、黎深。きちんと絳攸殿に謝るのですよ」
悠舜は、これ以上ヘンなことを私の室で叫ばないでください、と言って黎深を室から追い出した。
【絳攸・楊修編】
トントン、と扉を叩いた楊修は、返事を待って室へと入った。
「失礼します、李侍郎。先ほどの書翰ですが、決裁印、頂けましたか」
「ああ。――あっ、よ、楊修……!」
室に入ってきたのが自分だと分かってあからさまに動揺しだした絳攸の顔を見、楊修はくすりと笑った。彼の年下の上司は、大抵の仕事は『鉄壁の理性』でソツなくこなすが、養い親と色事関係には超がつくほど弱い、ということを楊修は知っていた。
くすくすと笑いながら意地悪く告げる。
「そんなに慌てずとも大丈夫ですよ、李侍郎。アノコトはまだ誰にも言っておりませんから」
「あれは誤解だっ! というより"まだ"ということはこれから誰かにいうつもりなのかっ!?」
「さぁ、どうでしょう……? おや李侍郎、紅尚書の衣をお召しですか。コトの後に衣の交換とはずいぶんと仲のよろしいことで。――それともあなたの衣は着ていられないくらい汚しでもしてしまったんですか?」
「そ、そういうんじゃない!! 黎深様とはただ衣を交換しただけだ!!!」
それ以上は何もない!と慌てて言い募る絳攸に、楊修は楽しそうに笑う。
「そうですか? でも、そんな格好じゃあ、そういう誤解をされても仕方ないと思うんですがねェ……」
あなたのその姿を見たら他の官吏たちもそう思うんじゃないですかね、と笑いながら室を出て行った楊修を見送った絳攸は、即座に面会謝絶・入ってきたら減俸、と書いた紙を自室の扉へと張りつけた。
END.
拍手お礼として置いてあった「衣替え」シリーズのオマケでしたー。

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