*珀明の憂鬱*
(黎深・絳攸・珀明)
【5】
「絳攸、もう少し上へ。……そう、その辺りだな」
「はい。――黎深様、すごく張ってらっしゃいますね……。かたい……」
「そうか?」
「はい。これはやりがいがありそうです」
ふふっと笑った絳攸の気配を感じて、珀明は眩暈がした。
(こ、絳攸様……。紅尚書にいったいナニを……!!)
「では、いきますよ、黎深様」
きし、と長榻の軋む音が響く。
きし、きし、としばらく続いてから、黎深の諭すような声が聞こえた。
「絳攸、まぁるく円を描くように力を入れるのだ。初めはそぉっと、だんだん強く、な」
「こ、こうですか黎深様」
「ああ、そう、そうだ。ソコはイイな……」
「こ、ココですか、黎深様」
「ああ、イイ。上出来だ、絳攸」
「ありがとうございます!」
「だが、もう少し強く」
「はいっ!」
きしきしという音は、黎深から「もういい」という言葉が出るまで続いた。
「なかなかよかったぞ、絳攸」
「俺っ、黎深様によろこんで頂けるのなら毎日でもします!」
力いっぱいそう言った絳攸の声が聞こえて、珀明は目の前が真っ暗になった。
珀明の脳は今、よかったを「良かった」ではなく「悦かった」、
よろこんでを「喜んで」を「悦んで」に変換してしまったのだ。
(あ、憧れの絳攸様が……)
くら、とめまいがして珀明はたたらを踏んだ。
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