*案ずるよりも*
(黎深・絳攸)
【4】
絳攸は、いまだかつてないほど緊張した面持ちで母屋の敷居をくぐった。
幼い頃に黎深に拾われ、今まで育ててもらった。拾われた以上、「そういった可能性」がまったくないとはさすがの絳攸も思っていなかったが、黎深にそんな趣味があるようにも思えず、事実今まで「そういったコト」とは無縁だった。
――だが、来るべき時が来たのかもしれない。
そう覚悟を決めて、絳攸は黎深の待つ居間の扉を開けた。そこには長榻で寛ぐ養い親の姿があった。
「し、失礼します。ただいま戻りました」
「来たか絳攸。ふん、まぁ当然だな。散々溜まっていたお前の仕事も、私が終わらせてやったのだし」
ありがたく思えと言って黎深は、機嫌良さそうに笑った。
ちなみに溜まっていた仕事の大半は本来尚書である黎深がすべきものなのだが、別のことで頭が一杯の絳攸は、そんな突っ込みもできずにただこくりと頷いた。
「はい……、ありがとうございます」
硬い表情で頷いた絳攸に、黎深は僅かに首を傾げる。
「どうした? 体調でも悪いのか」
「い……、いえ、いえっ。そんなことはありません」
そうは言いつつ、青白い顔で首を横に振る絳攸を見て、黎深は眉間に皺を刻む。
不機嫌そうなその養い親の表情に、絳攸は慌てて言葉を付け足した。
「少し緊張しているだけです」
「…………そうか。まぁいい。用意をしてきなさい。必要なものは揃えさせてある」
「は……っ、はい……」
ついにきた、と絳攸は内心うめいた。
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