*ふたつのみかん*
(黎深・百合・絳攸)
【3】
絳攸ははぁはぁと肩で息をしながらも勢い込んだ。
「百合さん、また紅州に行くって本当ですか!?」
「あら耳が早いわね。そうよ」
あっさりと言われ、絳攸はグッと詰まった。途端に泣き出しそうな表情を浮かべる。
それを百合は、素直でかわいいと思った。
無言でみかんをパクついている素直じゃない夫も、かわいいといえば言えなくもないのだが……。
「そんな顔しないの。またお土産いっぱい持って帰ってくるから」
「でも……」
「私の代わりに黎深置いていくから。ね?」
本当は"百合が黎深の代わりに紅家の仕事をしに行く"のだが、まぁどちらでも構うまい。2人一緒なのだからいいだろう。
にこにこと笑った百合に、絳攸は少しためらった後、首を縦に振った。
「……………………はい」
「いい子ね絳攸。――あ、みかん食べる? おいしいわよ、冷凍みかん」
「れいとうみかん?」
「冬に採れたみかんを氷室で凍らせておくの。暑いときに食べるとおいしいのよ」
百合はそう言って皿に置いてあった冷凍みかんを見た。そこにはまだ剥かれていないみかんが1つと、ちょうど半分食べられたみかんが置かれていた。
隣に座る黎深を伺うと、相変わらずそっぽを向いている。
まぁいいか、と思いつつ百合は絳攸をその横に座らせ、新しいみかんを剥き始めた。
「じゃあ絳攸は私と半分こね」
「はいっ」
みかんの皮を剥き終わった百合は、実をサクッと半分に分けて絳攸に渡す。
と、横から腕が伸びる。
「あっ、何するの黎深!!」
剥き終えたばかりのみかんをひょいと取り上げた黎深は、無言でそれを自分の口に押し込んだ。
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