*ふたつのみかん*
(黎深・百合・絳攸)


【4】

「あっ、何するの黎深!!」
剥き終えたばかりのみかんをひょいと取り上げた黎深は、無言でそれを自分の口に押し込んだ。
「ああっ、ひどいよ黎深! きみはさっさと自分の分食べてたくせにっ」
みかんを持っていかれた百合は黎深に食って掛かった。
それに黎深はフンと鼻を鳴らす。
「その皿に半分あるだろうが」
「あれはきみが残した分だろ!?」
「同じだろうが。どっちもみかん半分だ」
「そもそもそーいう問題じゃないよ! 他人のものを勝手に取って食べちゃいけないんだってば!」
「他人じゃない」
「そういうのをヘリクツっていうんだよ!」
ぎゃーぎゃーと言い争い始めた2人に、みかん半分を手にした絳攸はおずおずと話しかけた。
ちょいちょいと百合の袖を引っ張る。
「ゆ、百合さん、なんなら僕の分を半分……」
健気にもそう提案してくれた絳攸に、百合は微笑んだ。
「絳攸は気にしなくていいのよ」
「そうだ。それはおまえが全部食べろ」
「きみが言うことじゃないだろ、黎深!」
「もううるさい。いいからこれを食え」
黎深は皿に残っていたみかんを手に取ると、百合の口へと押しつけた。
「ちょ……、わ、分かった分かった食べるから!」
そうして百合は黎深が残したみかんを渋々食べ始めた。
それを見た絳攸も、もらったみかんを食べ始める。
それをおそるおそる口に入れ、もぐもぐと嚥下した子供は、瞳を輝かせた。
「わぁっ。本当に冷たくておいしいですね!!! 僕こんなの初めて食べました!」
「そう? よかったわね絳攸。まだまだたくさんあるから、暑い日には黎深に出してもらって食べるといいわ。今度はちゃんといっこ……」
「ダメだ。女子供はすぐにハラを壊すから、半分だ。じゃないとやらん!!」
本当にみかんはまだまだあるのだし、黎深は別にケチでもないのにどうしてそんなことを言うのだろう、と首を傾げた百合は、次の瞬間あっと気付いた。
百合と絳攸、わざわざそれぞれから半分ずつ奪ったのは、そういうことだったのだ。
……年下の夫は、やっぱりかわいいかもしれない。
「そうね、じゃあ2人で仲良く、毎日半分コね」
くすくすと笑った妻を見た黎深は、自分の意図がバレてしまったことを知って気まずそうに顔を背けた。
「――おまえらのために言ってやってるんだ!」
「はいはい。そういうことでもいいよ」
そう笑って、百合は最後の一粒のみかんを口に入れた。

END.
【←3】
2人ともとみかんを「半分こ」したかった黎深様です(笑)

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