*ふたつのみかん*
(黎深・百合・絳攸)
【2】
百合はおもむろに懐から包みを取り出した。幾重にも包まれていたそれを丁寧に取り出して、そっぽを向いている夫の首筋に当てる。
「ぐわっ!!!!!」
それに黎深は飛び上がらんばかりに驚いた。
手で首元を押さえると、鬼のような表情で百合を振り返る。
「百合!!!」
「あはは! びっくりした? 冷たかった?」
百合が手にしていたのは、みかんだった。それも、数か月のあいだ氷室で冷やし続けてキンキンに冷えまくった、冷凍みかんだ。
「食べるでしょう? 黎深好きだもんね、冷凍みかん」
いたずらっぽく笑った妻から、黎深はそっぽを向いた。
百合はそれを了解の印だと受け取って、さっそくみかんを剥き始める。
と、ぱたぱたという足音が聞こえた。いや、正確には、ぱたぱたという足音に、とんとんと扉を叩く音の繰り返しが聞こえてくる。
それが何度か繰り返された後、ようやく百合の室の扉が叩かれた。
とんとん、という音に百合が返事をするやいなや、その扉は勢いよく開かれる。
「はい、どうぞ」
「ゆ、百合さん!!!」
ばーんっ、と室の扉を開けたのは絳攸だった。転がるようにして百合と黎深の元へと駆けてくる。
「いらっしゃい絳攸。あら、頭に葉っぱがついてるわ」
ここに来るまで散々庭を迷ったのであろう絳攸の衣服を整えてやりながら、百合は微笑みかけた。
「そんなに急いでどうしたの?」
そう問われ、絳攸ははぁはぁと肩で息をしながらも勢い込んだ。
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