*ばれんたいん小話08*
(珀明・絳攸)
すぅ、はぁ、と呼吸を整えて、碧珀明は目の前の扉を叩いた。中からの返事を待って扉を開く。
「へっ、碧珀明です! 入ります!!」
大声でそう言って開いた扉の先には、憧れの人・李絳攸の姿があった。
彼は珀明が入朝する前から尊敬してやまない、(当時)史上最年少状元及第で現吏部侍郎、「鉄壁の理性」を有する朝廷随一の才人である。
――と、彼の横に、もう一人分の姿が見えた。
「……藍将軍……」
その纏っている衣の色から、顔を見なくても分かる。
王の側近、左羽林軍の将軍でもある藍楸瑛は、絳攸とは同期及第であり一番の親友を自称している。武官でありながらよく吏部にも訪れるので、珀明も彼のことをよく知っていた。
少々気まずいと思いつつも、珀明は目上の2人に対して頭を垂れた。
「お話中のところ申し訳ありません。絳攸様、先日絳攸様が仰っていた資料ができましたのでお届けいたします」
「あ、ああ」
もうできたのか、と呟いた絳攸は、珀明が差し出した資料をぱらぱらとめくった。
「いい出来だ。悪かったな珀明、面倒な仕事を押しつけて。大変だっただろう」
「いいえ、絳攸様のお役に立てただけで十分です」
そう言って珀明はにっこりと笑った。
本当はこの仕事を仕上げるために、ここ数日間ろくに寝食もとっていなかったのだが、絳攸にそう言ってもらえただけでその苦労も報われる気がした。
そんな部下に絳攸も微笑み返す。
「あ、そうだ珀明、ちょっと待ってろ」
そう言って絳攸は席を立った。
がさごそと横に置いてあった戸棚を漁ると、小さな包みを取り出して珀明に手渡す。
「ほれ、お駄賃代わりだ。帰って食え」
ぽとん、と珀明の手に落とされたそれは、どうやら菓子の袋ようだった。
それは珀明の手にちょうど収まるくらいの小さなものだったが、憧れの絳攸から物をもらえた珀明は、それはもう踊りださんばかりに喜んだ。
「えっ、あっ、ありがとうございますっ!!」
「楸瑛。……お前はいらないよな?」
珀明がはしたないと思いつつも絳攸の手元を見ると、その戸棚には珀明がもらったのと同じような小袋がいくつか入っているようだった。
「うん?」
なんだい絳攸、と言いかけて振り向いた楸瑛には、絳攸が手にした小袋を戸棚に戻すのが見えた。
「うん、って言ったな。お前にはもうやらん」
後で俺が自分で食おうと呟いた絳攸に、楸瑛がはっとした表情を浮かべる。
だが絳攸はそんな友人に背を向け、珀明に向けて微笑んだ。
「ああ珀明、お前はかなり疲れているだろう。今日はもう帰っていいぞ。――ありがとう」
「はっ、はいぃっ!!! こちらこそありがとうございますっ! 大事にいただきますっ!!! それでは失礼いたしました!!!!!」
『はっぴぃばれんたいん』と書かれた札がついた菓子の袋を胸にかかえて、珀明は満面の笑みで吏部侍郎室を後にした。
END.
【楸瑛+絳攸】 【黎深+絳攸】
絳攸を一途に慕う珀明ってかわいいですよね〜v

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