*ほわいとでー小話*
(黎深・絳攸)


その日、絳攸は帰宅するなり養い親に呼ばれた。
あの人からの呼び出しっていつもロクなことがないんだよな、と思いつつ、まさかそれに逆らうわけにもいかないので、大人しくその室へと向かう。
「失礼します、黎深様」
「ああ、やっと来たか。茶を淹れろ」
「…………はい」
やっぱり。ていうかそんなこと家人に命じればいいのに、と思いながら絳攸は茶筒を手に取った。急須に湯を注いで抽出を待つ間に、背後の養い親へと話しかける。
彼の養い親はといえば、長榻に半分寝そべるようにして寛いでいた。
「ああ、そういえば珀明から聞いてきましたよ。一月前にもらった、黎深様もお気に入りのあの菓子は碧西区の店のものだそうです。今度買ってきますね」
「そうか。――碧珀明は何と言っていた?」
「え? 別になんとも言ってませんでしたよ? ――あっ!!」
湯呑みに茶を注いでいた絳攸は、そこで唐突に声を上げた。
「どうした。何か思い出したのか?」
「いえ、そうではありません。見てください黎深様、茶柱が立ちました。いいことありそうですね!」
茶柱なんて久しぶりに見た、と嬉しそうに笑いながら湯呑みをそぅっと運んだ絳攸は、茶柱の入った茶を黎深に渡した。
「どうぞ」
「…………うむ。――絳攸」
「はい?」
自らも椅子に座りながら茶をすすった絳攸は、半身を起こした養い親に示されて卓子を見遣った。
「そこにある箱を開けてみろ」
「これですか?」
絳攸が箱を開けるなり、甘い香りがあたりに漂った。
その箱の中には絳攸が今まで見たこともない、丸い物体がいくつも入っていた。中には限りなく黒に近い物もあったが、色は茶色。表面は上質な金属のように滑らかでつるつるとした光沢がある。そして甘い香り。
「? なんですか、これ?」
「食べてみろ」
「えっ、食べ物なんですか、コレ!?」
「ああ」
頷いた黎深は、驚く絳攸の手元からソレを一つ摘むと、ひょいと自らの口へと放りこんだ。それにならって絳攸も恐る恐るそれを口に運ぶ。
「……あまい……! おいしいです、黎深様! それに、口に入れたら、噛んでないのになくなりました!!」
「コレは熱にとけるのだそうだ。どこか異国では『王の食べ物』と呼ばれているらしいな。どこぞでは薬としても使われるそうだ」
「え……。それって……」
絳攸は記憶を総動員し、断片的に与えられた情報を繋ぎ合わせる。確かこの前、書物で読んだ……。
「黎深様、ひょっとしてコレ、『ちょこ』ですか!?」
「そうだ」
「えええっ!!! ど、どうやって、どこから手に入れたんです!? どこを探しても『ちょこ』はおろか、原料すら手に入らなかったのに!!!」
「……ほほう? お前、先月私に『ちょこ』だと言って得体の知れないものを食べさせたよな? 原料が手に入らずに、お前はどうやって『ちょこ』を作ったのだ? んん?」
意地悪く微笑んだ養い親に、絳攸は口篭もった。どう考えても、絳攸の分が悪い。
「そ、それは………………。ご、ごめんなさい……」
「――仕方のない。その『ちょこ』はお前にやろう。それからもう少し料理を勉強しろ。いいな」
そこに置いてある本も持っていけ、と黎深が示した先には、料理の本があった。
「…………はい」
絳攸は『ちょこ』と料理本を抱え、とぼとぼと自分の室に戻った。

END.
【珀明+絳攸】 【楸瑛+絳攸】
黎深様からのホワイトデーのお返しは、チョコと本ということで。ていうか、分かりにくい返し方ですが……。絳攸はきっと「お返し」だって気付いてないと思います(笑)

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