*ほわいとでー小話*
(珀明・絳攸)


(ああ、やっぱり今日もカッコいいなぁ、絳攸様……)
碧珀明は吏部内を颯爽と歩いていく侍郎の姿を目で追いながら、ほぅ、と溜息を洩らした。仕事の手を止め、しばし彼の歩く姿に見入る。
と、なんと、その彼が自分の方へ向かってくるではないか。隣の席の先輩官吏にでも用があるのだろうか、と珀明は思ったのだが、視線はしっかりと珀明を捕らえているように思える。
(これは夢か!? 僕の気のせいか!? いやでも絳攸様は確かにこちらへ……!)
はたしてそれは珀明の思い込みなどではなかった。
吏部侍郎・李絳攸は、しっかりと珀明に向かってこう言ったのだ。
「碧官吏。後で侍郎室へ来い。仕事のキリがいいところで構わない」
「はっ、ハイッ!!! 今、今行きますッ!!」
勢い込んでそう言い即座に立ち上がった珀明に、当の絳攸も、周囲の先輩官吏も苦笑した。珀明の「絳攸好き」は、吏部内でも有名だったからだ。
「いや、その書翰を処理し終わってからで構わないぞ?」
「いえっ! 大丈夫です!!!!!」
「そうか? ならいい、来なさい」
「ハイッ!!」
そうして珀明は絳攸に付いて侍郎室へと向かう。
(ああ〜。こうして絳攸様と並んで歩けるなんて、夢みたいだ……!)
珀明のほんの少し先を歩く絳攸は、チラチラと後ろを振り返って珀明がちゃんと付いてきているか確認しながら歩いてくれている。その細やかな優しさに、珀明は舞い上がった。
(絳攸様! 僕はどこまでもあなたについていきますっ!!)
だがそんな珀明にとっての夢の時間は、そう長くは続かなかった。
あっさりと侍郎室まで着いてしまい、珀明は少しばかり落胆した。
一方、どこかホッとした表情の絳攸は侍郎室に入るなり机案の引き出しを探る。と、そこから取り出した包みを珀明へと差し出した。
「珀明、これを」
「あ、はい!」
「一月前の礼だ」
「…………え?」
珀明はきょとんと首を傾げた。
「『ばれんたいん』に菓子をもらっただろう? 今日は『ほわいとでー』といってその礼をする日だそうだからな。ほら、持っていけ」
絳攸は事務処理を頼むのと同じような気安げな口調で告げる。
だが言われた珀明は驚きと喜びに瞳をまんまるに見開いた。あまりのことに言葉が出てこない。
(ま、まさか絳攸様からお返しを頂けるなんて!!!! これはひょっとしてちょっとは期待しても……!?)
そんなことを思いつつ、珀明はドキドキと胸を高鳴らせた。
期待に満ちた瞳で自分を見つめてくる部下に、絳攸も微笑む。
「もらった菓子、美味かったぞ。しばらく毎日茶請けとして頂いた。れぃ…、紅尚書も大層お気に入りでな。どこの店の菓子か聞いてこいと仰っていた。貴陽の店か? それともひょっとして碧家の専属料理人に作らせたのか」
「え……?」
珀明は言われた言葉を理解するまで、少々時間が掛かった。
(美味しかった…、紅尚書もお気に入り……? って、絳攸様は紅尚書と一緒にあの菓子を食べたのか……? いや、でもあれは絳攸様に差し上げた菓子だ、絳攸様が誰と食べようが、僕がとやかく言える立場じゃないが…………。でも、でもでも! どうしてよりにもよってあの鬼尚書と!!!!!)
「珀明? ひょっとして秘密にしておきたいほどとっておきの店なのか?」
悪びれない様子で微笑む絳攸は、珀明の沈黙の理由などまったく気づいていないらしい。
珀明は少々落胆しつつ、首を横に振った。
「いえ……。あの店は碧西区にある菓子店のもので……」
「そうか碧西区か。今度行ってみよう。ありがとう、いい店を教えてもらった」
「いいえ……。絳攸様のお役に立てて光栄です……」
「ああ、用はそれだけだ。もう仕事に戻っていいぞ」
「はい……。あの、お返し、どうもありがとうございました……」
そう言って侍郎室を辞去した珀明は、行きとは打って変わって肩を落とし、自分の席まで戻った。

END.
【楸瑛+絳攸】 【黎深+絳攸】
珀絳(もしくは絳珀)の方、すいません……。珀くん玉砕です(苦笑) というか黎深様はここまで見越して「店を聞いてこい」とか言ってそうです、、、 まさに鬼尚書(笑)

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