*ほわいとでー小話*
(楸瑛・絳攸)


回廊を歩いていた楸瑛は、少し先に見慣れた後姿を発見してくすりと笑った。きょろきょろと左右を見比べているその人影は、どっちに行こうか迷っているに違いない。
彼がくすくすと笑いながらその人影に近づいていく間に、その人物はどうやら決心が固まったらしい。左の道を選んだらしいその人物は、数歩歩いたところで呼び止められて立ち止まった。
「おや絳攸、どこに行くんだい? 主上の執務室なら逆だけど」
「……っ、楸瑛……!」
「おはよう。今日もかわいいね、絳攸♪」
「…………うるさい! バカにするな!!」
「別にバカにしてるわけじゃなかったんだけれど……」
結構本気で君自身をかわいいと思って言ったんだけど、とは、賢明な楸瑛は口に出さなかった。そんなことを言えば、この友人は余計に怒るだろう。
「それに俺は主上の執務室に向かっていたんじゃない。だから迷っていない」
「おや、そうなの? 吏部も右から行った方が近いよ。府庫なら戻らないと行けないし」
そう言った楸瑛に、絳攸は勝ち誇ったように次げた。
「残念だったな。俺が向かっているのは吏部でも府庫でもない。軍部だ! ――どうだ、迷ってなどいないだろう」
「え。えええ!? 確かに軍部は左から行ったほうが近いけど……。どうしちゃったの? というより、どうして軍部に……?」
楸瑛には、吏部侍郎である絳攸が、軍部に用事があるとは思えなかった。
「そ、れは、だな……」
「それは?」
「………………」
気まずい顔で黙ってしまった絳攸は、持っていた風呂敷包みを無言で差し出した。
そんな友人の行動に楸瑛は首を傾げる。
「え? 何、これ。ひょっとしてこれを軍部に届けに行こうとしてたの?」
「……軍部というか、お前にだ」
「え……っ?」
絳攸から風呂敷包みを受け取りながら、楸瑛は目をしばたかせた。
「私に? ――絳攸、それってひょっとして……」
「勘違いするな! 借りは返さないと気がすまないだけだ!!」
「『ほわいとでー』のプレゼント、だと思っていいんだよね……?」
「……仕方ないだろう。そういう風習らしいからな」
頬を染めて視線を外しながらそう言った絳攸に、楸瑛は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう絳攸。とても嬉しいよ」
「っ、言っておくがな! それの中身はただの菓子だからな!! 執務室の茶請けにしたら三日で無くなるぞ!」
それは暗に「執務室の茶請けとしてみんなで食べよう」と言っているのかな、と楸瑛は思ったが、彼はそれでも構わなかった。彼は、今日という日を忘れずに、自分へ「お返し」をくれた絳攸の心だけで十分だった。
「うん、それでも嬉しい。どうもありがとう」
「……なら、行くぞ」
そう言ってスタスタと歩き出した絳攸は、再び楸瑛に呼び止められて立ち止まる。
「どこへ行くんだい、絳攸? 軍部への用はもうなくなったんじゃないのかい? 主上の執務室も吏部も、反対方向なんだけど?」
「くっ…………」
「私はこれから主上のところへ行こうと思っていたんだけど、付いてきたかったら付いてきてもいいよ。ちょうど美味しそうなお茶請けをもらったところだしv」
今日のお茶葉は何にしようかな、などと呟きながら踵を返した楸瑛は、無言で斜め後ろを付いてくる友人の気配を感じて、くすりと微笑んだ。

END.
【珀明+絳攸】 【黎深+絳攸】
絳攸はさり気に、自分が食べたいお菓子を楸瑛に贈ったんじゃないかと思います(笑)。一緒に仲良くおやつタイムの双花+王、って、微笑ましいですよね。団子三兄弟(笑)。

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