*えいぷりるふぅる*
(絳攸・楸瑛・劉輝・邵可・黎深)


【4】

と、その時。
府庫の扉が勢いよく開いた。
「失礼します邵可様っ。――ああ絳攸! やっぱりここだった!!」
府庫に飛び込んできたのは他でもない、藍楸瑛だった。
はぁはぁと肩で息をしつつ室に入ってきた楸瑛に、絳攸も思わず立ち上がる。
「楸瑛っ! おまえよくも俺を騙してくれたなっ!!」
「そ、その話はまた後で。それより大変なんだ。紅尚書が!」
楸瑛の言葉に、絳攸も邵可も一瞬にして表情を改めた。
「黎深様が?」
「黎深に何か!?」
「主上の執務室に来て、いきなり辞表を突き付けたんだ。いま主上が必死でお止めしているんだけど」
とにかく一緒に執務室へ来てくれないか、と言った楸瑛に、絳攸は色を無くして立ち尽くす。
「ひょっとして、黎深様は、俺のウソのせいで……? ……いや、でも、まさか……」
「絳攸、衝撃を受けているのは分かるけど、今はとにかく急いで!」
「そうですよ絳攸殿、ホケホケしている場合ではありませんよ。一刻も早く執務室へ行って誤解を解かねば。及ばずながら私も行きましょう」
まさか、と呟いて呆然としていた絳攸は、目の前で楸瑛に手を打たれてハッと我に返った。
「絳攸! こんなときこそ君がしっかりしなくてどうするんだい!!」
「あ、……ああ……。すまない楸瑛」
「急ぎましょう、お二人とも。黎深と一対一で、主上がそんなに保つとは思えません」
府庫を出た三人は、全力疾走で執務室へと急いだ。




「……という訳で、私は隠居させて頂きます」
「ま、待つのだ黎深! 今そなたがいなくなっては、朝廷は本当に困るのだ!!」
「知ったことではありませんね」
「そ、そんな……! 残される吏部官たちはどうすればよいのだ! 尚書も侍郎も揃っていなくなるなど前代未聞だぞ!?」
「私も絳攸も、『前代未聞』と称されることを今まで数え切れぬほどしてきましたよ。今更でしょう」
「だが……っ、余はどうすればよいのだっ」
「知れたこと。あなたはただ黙って私の辞表を受け取ればよろしい」
そう言ってずずいと辞表を突き付けてきた臣下に、劉輝はぐっと押し黙った。
(まだひよっこ王の余が、悪鬼巣窟鬼尚書の黎深と対等に渡り合えるはずがないのだっ。楸瑛、早く絳攸を連れてくるのだぁ〜っ)
内心そう叫びつつ、劉輝は首を横に振った。
「う、受け取れないのだ……っ」
「……ほう? 受け取れぬというのなら、私にも考えがあります。――必ずや受け取らせてみせましょう」
「…………っ」
にっこりと笑った黎深に、劉輝がたじろいだその時、執務室の扉が開いた。

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