*えいぷりるふぅる*
(絳攸・楸瑛・劉輝・邵可・黎深)


【3】

勢いで吏部を出た絳攸が向かった先は、府庫だった。
府庫は、絳攸が迷わずにたどり着ける数少ない場所であり、尊敬している紅邵可が管理をしている場所だ。
そっと扉を開けると、棚の書翰を整理している邵可の姿があった。
それに絳攸はそっと声を掛けた。
「邵可様」
「これは絳攸殿。仕事は一段落したのですか? ならばお茶でも飲んでいきませんか。私もこれを片付けたら休憩しようと思っていたのです」
腕に抱えた書翰を指差して微笑んだ邵可に、絳攸はありがたく頭を下げる。
「では、邵可様がその書翰を片し終わる前に、お茶を入れておきますね。奥の部屋と茶器をお借りしても構いませんか?」
「ええ、もちろんです。ではすみませんがお願いします」
すぐ済みますから、と笑った邵可に、絳攸も微笑を返す。
それから程なくして仕事を終えた邵可は、絳攸の淹れた茶に口をつけて微笑んだ。
「私が淹れるよりもずっとおいしい。ちょうどよく絳攸殿が来てくださってよかった」
「いえ……。すみません、お仕事の邪魔をしまして」
申し訳なさそうにそう言った義理の甥に、邵可は優しく問いかける。
「何かあったのですか? また弟があなたに無体なことを……?」
「いいえ、あの、悪いのは俺…、私の方なんです」
カクカクシカジカで……、と事情を話した絳攸に、邵可はふふふと笑った。
邵可の様子があまりに楽しそうで、絳攸は首を傾げる。
「邵可様?」
「ふふ。『大事な人にウソ』ですか。藍将軍も罪なことを……」
くすくすと笑い続ける邵可に、絳攸はひたすら首をひねった。
「藍将軍も、『大事な人にウソ』をついたのですよ。絳攸殿、大事なあなたにね」
「?」
「確かに今日は『えいぷりるふぅる』ですが、『えいぷりるふぅる』とは、『大事な人にウソをつかねばならない日』ではなく、『ウソをついてもいい日』なのですよ。もちろん、害のない益体のないかわいいウソをね。――絳攸殿は藍将軍に、まんまと騙されたわけですね」
「あんの常春……っ!!!」
拳を握りギリリと歯を噛み締めた絳攸に、邵可は楽しそうに笑う。
「まぁまぁ。怒ってはいけませんよ。なにせ今日は『えいぷりるふぅる』なのですから」
「ですが邵可様! 楸瑛のせいで俺は黎深様にウソをっ!」
「事情を話して謝ればよいのですよ。『大事な人に』をいささか強調してね」
そうしたら弟はきっと許してくれますよ、と邵可は微笑んだ。

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