*独裁*
(悠舜×黎深)
【2】
やっと口を開いた黎深から出たのは、これまた悠舜の予想通りの言葉だった。
「柚子茶が飲みたい」
「それで?」
「……淹れてもいいか?」
他人に命令することに慣れ、やらせることを当然としてきた黎深にしては、及第点な答えだ。
悠舜は黎深に向き直り、にっこりと微笑んだ。
「ええ、もちろん」
許可をもらった黎深は、嬉しそうな顔で柚子茶を淹れ、飲んだ。
飲み終えた黎深は、そこでふと気付いたように悠舜に問う。
「悠舜」
「はい?」
「最近どうして髪を巾で括ってるんだ」
おかわりなら2杯までですよ、と言いかけ悠舜は、思いもよらぬことを聞かれ、珍しくもその瞳を丸くした。
「は……?」
髪は巾でまとめるのが正式だった。下ろしていて、なぜ、と聞かれるならまだしも、結っている理由を聞かれるとは思わなかった。
悠舜としては下ろし髪の方が楽でよかったが、あまり私的なだらしない部分を見せるのも好きではなかったので、予備宿舎にきてからはなるべく結うようにしている。
「人前では髪はまとめるのが普通ですよ。あなただって結っているでしょう?」
「私は、下ろしている悠舜の方が好きだ」
「…………」
「悠舜。聞いてるのか」
ぐい、と半ば強引に巾をはずされ、悠舜は少々慌てた。
「ちょ、ちょっと黎深!? 何するんですか」
黎深によって解かれ乱れた髪を撫でやりながら、悠舜は彼に非難の目を向ける。
この"普通"とはちょっとかけ離れたお坊ちゃんは、果たして自分の発言と行動の意味を分かっているのだろうか。
「黎深、他人の髪をむやみやたらと触るものではありませんよ」
そう忠告した悠舜に、黎深は解せないといった顔を浮かべた。
「下ろしていた方が似合うのに、なんでだ。第一、初めて会ったときには結いもせず街中を歩いてたろう。減るもんでもなし」
やはりイマイチ分かっていない風な黎深に、悠舜は密かに嘆息しつつ、わざと茶化して言った。
「分かりませんよ? 今はそうとは見えなくとも、あなたに髪を引っ張られたことが、将来減ってしまう原因になるかもしれません」
だから他の人にこういうことをしてはいけませんよ、と悠舜は黎深をたしなめた。
「そんなわけあるか。ちょっと引っ張ったくらいでハゲてたまるか」
「可能性はなくはないですよ。……とにかく、他人の髪は軽々しく触らないように」
そう言いつつ軽く髪を整えた悠舜は、それを結ぶことはせず流れるに任せた。ふてくされたように他人じゃないと呟く声には聞こえなかったふりをして。
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