*独裁*
(悠舜×黎深)
【3】
数刻後、夜もすっかり更けた頃に再び悠舜の室を訪れた黎深は、状況を見てその端正な顔を引きつらせた。
「おー、来たか黎深!」
「遅いぞ黎深」
「人の室に入る前に扉を叩きなさいと言ったでしょう」
そう口々に言って扉を振り返った友人たちは、それぞれ手に盃を持っていた。
「…………何やってる」
黎深が普段より3割増で低い声で唸った言葉は、幸か不幸か飛翔には届かなかった。
「酒飲もうぜ、酒! さっきウチのモンが届けてくれてよ」
上機嫌でそう言った飛翔の横には、すでに空になった瓶が数本転がっている。すっかり冷めてはいたが、小さな卓には菜やら点心やらも並び、予備宿舎にしては珍しく豪華な夕餉だった。
だが黎深はそんなものには目もくれず、ぷりぷりと怒っていた。
その怒りを、悠舜は"仲間はずれにされたため"だと解釈していた。
「呼びに行かなくてすみませんね、黎深。あなたはいつも呼びに行かずとも食事のにおいをかぎつけて飛んでくるので、その、そのうち勝手に来るだろうと思ってまして」
だが黎深はその言葉を聞くと余計不機嫌になった。
「悠舜! なんで髪下ろしてるんだ!」
その言葉に悠舜は首を傾げる。
「……は? 今さっきあなたが巾を取っていったんでしょう」
「だからって何で結わない!」
「だって黎深、下ろし髪の方が好きだと言っていたでしょう?」
「人前では結うと言っていたじゃないか!」
「ええまあ。でももう今日はどこにも出掛けませんし」
「こいつらがいるだろう!」
「飛翔と鳳珠ですか? いつものことじゃないですか」
「私のいないところでは結え!!」
「はい? あなたもここにいるじゃないですか」
いつもながらよく訳の分からない理屈だ。
一体何を言っているんだという表情を浮かべた悠舜に、黎深は口をへの字に曲げた。
「黎深? 何を拗ねてるんです」
「別に拗ねてない! ……っ、もういい!」
そう言ってそのまま室を出て行こうとする黎深を、それまで黙って見ていた鳳珠も首を傾げつつ呼び止める。
「黎深? 一緒に飲まないのか」
「うるさい!」
本当にそのまま室を出て行ってしまった黎深を見送って、悠舜と鳳珠は揃って首を傾げる。
「何なんですか、結えと言ったり、結うなと言ったり……」
「珍しいな、黎深が夕餉を抜かすなど……」
ただ一人、飛翔だけは訳知り顔で苦笑を浮かべていた。
「あー……、悠舜、俺らの前では緩くでもいいから髪結え。黎深が嫉妬するから。……ホント、ヘンなのに懐かれちまったなー」
ご苦労なこって、と呟いて、飛翔はまたぐびりと酒を飲んだ。
END.
【←2】
ザビ扉絵の、ゆるーく髪を結ってる悠舜が気になって気になって……。巾じゃないのは何でかなー、と思っていたら、こんな話になりました(笑)

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