*北風に太陽*


【2】

最後の本を棚に並べと、絳攸が立ち上がろうとした。
そのとき、ぐらりと絳攸の身体が傾いた。



ぽすっ。



後ろに倒れかけた絳攸を胸で抱きとめた。
(まさに計画通り)
昨夜からの身体的疲労に加え、足元の棚にばかり入れてもらい、わざとしゃがんだ姿勢を取らせていたのだ。
急に起き上がったら、立ちくらみがするに決まっているではないか。



それにしても、胸の重みが愛おしくて仕方がない。
つい笑い声を洩らしてしまった。胸元から怪訝な声で尋ねられる。
「楊修様…私がふらついたことがそんなにおかしいですか」
「よくわかっているじゃないか」
肯定してやると、絳攸は、むっとしたようだ。
復讐とばかりに、垂れた前髪をぐい、と引っ張られた。
「楊修様は昨日、髪が傷んでいるとおっしゃっていましたね」
絳攸は手でつかんだものをまじまじと見ながら、言った。
ああ、言われていたように、毛先がちょっと傷んでいるかもしれない、昨夜聞いた楊修のぼやきに納得して絳攸が無邪気に笑う。



昨夜、ほんのりとともる灯は、すぐ隣にいるお互いの顔を煌々と照らしたが、闇に同化した自分の黒髪をつまびらかに見せることは最後までなかった。



まずいな、と思った。
今は澄み渡る青空の中心に太陽が昇っている時刻だ。
それなのに、腕の中には彼がいて、無防備にじゃれついてくる。



“だから”思い切り腕をのばした。
ゆっくりと、けれど確実に絳攸を引きはがす。
振り返った彼に、静かに告げた。



「閨の中での戯れごとを、おいそれと持ち出すのは無粋というものだ」



言って、どきりとした。



とたんに絳攸が大きく瞳孔を見開いたからだ。目が顔の真ん中まで伸びているんじゃないかというくらいはっきりと。
二人だけの部屋に、かたかたという音が大きく響く。
離した彼が震え始めたのだ。
握りしめて離さない私の衣服から、彼の動揺が伝わる。
真っ蒼な顔で見上げてきた。



「昨夜は、私で遊ばれたということですか…?」


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