*北風に太陽*


【1】

童話は、案外、侮れない。



「この二冊は、棚の一番下に。その三冊は、隣の棚に」
「はい! 楊修さま」
ここは自分の邸の書斎。
絳攸に指示を出すと、はきはきとした応答が返ってきた。
銀糸の髪を光に透かせた少年が、額に汗を浮かばせながら、本を元の位置にしていく。



彼に動いてもらう必要はなかった。いや、動けないはずだった。
昨晩は、彼の身体に相当酷なことをしたのだから。
それは、彼自身が一番よく知っていることだった。



けれども、言い出したのも彼だったのだ。
『もう少し、腕の中にいたらどうだい』
布団の中。
耳元で誘いかけた私に、腕の中で真剣な顔で尋ねてきたのだ。
『何か手伝えることはありませんか』
『ないな』
自分の邸でいったい何を頼めというのだ。掃除も調理も家人がすべてやっている。
彼を招いて、夜をともに過ごし、日がなこのままで、と囁いた私に、してもらうことなど何もない。



けれど、そう答えてやることはできなかった。
間近に、追い詰められたような表情で見つめてきたからだ。
黙って何もしないで過ごすことに怯えていると感じたからだ。



だから、すんでのところで言葉を取り換えた。
大きな打算も忘れずに。



『では、隣の書斎で読んだままほったらかしにした書物を、私が言うとおりに元に戻してくれないか』
とは言っても、あまり出しっぱなしだと、読みたいときに本が出せなくなるから、そんなにたくさんあるわけではない。すぐに終わる仕事だ。



しかし、ああ答えたときの様子と言ったら。
さっきまでの緊張はどこに行ったのか。
意気揚々と布団から飛び出て、私の手を引っ張って起こそうとする。
差し出された手を借りて身体を起こしながら、疑問に思った。



まったく、どれだけ北風にさらされ続けてきたのだろう。


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