*証(あかし)*


【2】

「れ、黎深様っ!?」

「…馬鹿者」

至近距離にまで顔を近付けられて顔を朱に染める養い子にひそかに満足する気持ちはひた隠し、呆れた声で低く呟いた。
そして手を頤から外し、そのまま下についと降ろして胸の中心を指すと、おもむろに問う。


「お前の名は?」

「…え?」

「お前の名は何だ?」


養い親からの意味不明な質問に絳攸は戸惑うも、あくまでも真摯なその様子に圧倒されて、素直に言葉を返す。

「李…絳攸…です」

「では、その名はいつ与えられた?」

「えぇ…と、十二年前の秋に。…!」

そこで、絳攸は初めて黎深が何を言わんとしているのかを悟る。そして自分の浅はかさに気付く。

知っているのに。
自分が、李絳攸が何者か。

その、証を。


「お前が生まれたのは私がお前を拾った冬の雪の日。私が名付けたお前の名は李絳攸。意味は兄上から聞いたのだろう?知らないとは言わせん。それだけでは不満か」

否、としか言わせないような絶対的な言葉が絳攸を支配する。心地良い束縛。それこそが…。

「…いいえ」

朱い夕日を背に浴びて、自分の目の前に君臨する養い親に、満足気な笑みを絳攸は返す。

「十分です。それだけで」

むしろ、それが俺の全てです。と、無言で返す。

今の自分は李絳攸以外の何者でも無くて。ならば、自分がいつ、何処で生まれて、どういう意味で名付けられたのかはもう十二分に知っていた。


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