<パラポルティアニ教会>

さらば『ミコノス』−その2

 海から吹き込む冷たい風を避けるようにして、僕はスケッチを続けた。

この白い教会は、パラポルティアニ教会といって、ミコノス島で最も有名な教会である。

絵葉書にもなっているので、ご存知の方も多いと思う。

 他の教会と異なって、その形は極めて自由かつ有機的で、メンデルスゾーンが設計した

ドイツ表現主義の記念碑的な建築物、アインシュタイン塔(1921年、ドイツ ポツダム)を

思い起こさせる。アインシュタイン塔は、アインシュタインの相対性原理を建築の形として

表現しようとしたものであるが、ミコノスのこの教会は一体、何を表現しようとしたのだろう。

 <パラポルティアニ教会>

スケッチを書き上げた僕は、その教会の内部を覗き込んだ。

すると、教会の中に1人のご婦人がいた。

彼女に、『中に入って良いですか』と尋ねたら、快く了解してくれ、

何枚か写真も取らしていただいた。

 彼女の話によれば、ミコノスタウンには265のファミリーがあり、そして、265の

教会があるという。

つまり、一つのファミリーが一つの教会を所有しているということになる。

ミコノス島では、それぞれのファミリーが自分達一族専用の教会を所有し、彼等自身で

維持管理をしている。そして、彼等はその教会で結婚式とか子供達の洗礼であるとか、

ファミリーの様々な行事を行うのだ。

 もちろん、このパラポルティアニ教会も、このご婦人のファミリーが所有しており、

維持管理も家族で行っている。内部には、イコンがあり、彼女のお父さんの墓標もあった。

年に2回、白ペンキで建物全体を塗り替えるのは、彼女のご主人と息子さんの仕事で、

2人で2日もあれば塗り終えてしまうのだそうだ。

  <ミコノスタウン>

  <ミコノスタウン>

 ミコノスタウンの道はまるで迷路のようだ。

モザイクのように白い縁取りで塗り分けられた石の道。

白く連続する階段。

細い、曲がりくねった道が複雑に絡み合い、そして、繋がっている。

それぞれの道には、行き止まりというのがほとんどなく、必ずといっていいほど別の道に

繋がっている。そして、道の両側に立ち並ぶ家々。

ミコノスの道は、まるで血液を体中に送る毛細血管のように、

町の隅々にまではりめぐらされていた。そして、それに連なる家々は、

あたかも血管から酸素と栄養素を吸収する細胞のように思えてならなかった。

真冬だというのに、花の色が鮮やかであった。

 <ロバの野菜売り>

〇ミコノス島

 エーゲ海に浮かぶ、キクラデス諸島の代表的な島。

 アテネから南東へ約95キロに位置し、夏には世界各地から観光客が集まってくる。

 ヌーディスト・ビーチでも有名。でも、僕が訪れたのは真冬。残念ながら誰も泳いで

 はいなかった。

  ピレウス港からは、フェリーで約6時間。

  船賃は往復 8,200ドラクマ(約2,900円)。シーズン中は、高速艇も就航する。