名士録

コンラート・アデナウアー



初代園主・村田久造が,池田勇人首相の依頼によりアデナウアー西独首相に盆栽を送付したことがある。
なお,この件に関する政治的背景が,1998年に外交文書公開によって明らかになった。

(以下,講談社刊「四季の盆栽」から引用)

 訪独なさった池田さんが,当時の首相アデナウアーさんに,
「日本刀がいいか,絵がいいか,帰国したら何か送ってあげよう」
とおっしゃったことがあるそうです。このときアデナウアーさんが選ばれたのが盆栽でした。
 しかし盆栽は日本から外国へ送るとなりますと,いろいろ面倒な手続きを踏まなくてはなりませんし,うるさい規則もあります。せっかく送っても,届く前に焼きすてられたりしたらつまらないじゃないか,というのが池田さんの正直な気持ちでした。ところが,
「途中はいざ知らず,ドイツの国内に入ったら絶対にそういうことはさせないから,安心して送ってくれ」
と,アデナウアーさんは保証されたのです。
 こういう訳で送らなければならない,相談したいので来てくれという御連絡があり,私は池田さんのお宅に伺いました。
「何を送ったらいいだろうか」
という御相談を受けまして,考えこんでいました。
 池田さんは大変ウメがお好きでした。だからウメにしようかとも思います。しかしウメは,花を楽しむのが10日ほど,あとは長い手入れの期間で,ちょっと難しいでしょう。結局,イチョウ,ニシキマツなどの5点に決まりました。ところが送る段になり,これは池田さん個人の贈りものではなく,アデナウアーさんの誕生祝いとして日本政府から贈るということになったのです。


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