ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の七拾
〜網棚のギター





八月中旬。
まさしく猛暑。
新しいセッションのリハーサルへ向かう。
お盆のせいだろうか、駅のホームには人影もまばら。
黄色い線の上で蜃気楼が揺れている。
背中を滴り落ちる汗。
アナウンスと共に各駅停車が滑り込んで来る。
少ない乗客。
強力な冷房。
束の間の白日夢。
気付けば誰もが物思いに耽っている様だ。
まるでこの車両だけ世界から取り残されたみたいに。
網棚に乗せたギターだけが私を繋ぎ留めてくれている。
さあ、新しい音は私を何処へ連れて行ってくれるのだろうか。

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