ガレージシャンソン歌手 山田晃士の
『嗚呼、泥沼回顧録』
其の六拾八
そんな気分





髪を切った。
バッサリと。
腰まであった黒髪は顎のラインで揃えられた。
五分前迄はそんなつもりはなかった。
美容院で急に“そんな気分”になったのだ。

“そんな気分”は突然やってくる。
明確な理由がない。
太刀打ち出来ない。

今考えると
女の子と別れたのも
帰り道を変えたのも
バンドを解散したのも
引っ越しをしたのも
所属事務所を離れたのも
“そんな気分”に寄るものかもしれない。

“そんな気分”の積み重ねで
私は人生を棒に振ってしまうのかも知れない。

“そんな気分”の後はやわらかな後悔をする。

髪を切った私は
まるで素っ裸みたいに恥ずかしい。


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